「少し、様子を見ましょうか」
就学前健診の最後に、そう声をかけられた。——その帰り道、頭の中がずっとぐるぐるしている方もいるのではないでしょうか。
「何か問題があるってこと?」「大丈夫なら、そう言ってほしかった」「”様子を見る”って、何を見ればいいの?」
就学前健診のあと、多くの保護者の方が抱える気持ちだと思います。
この記事では、次の3つをお伝えします。
- 「様子を見ましょう」の本当の意味
- 入学までのスケジュールと、小学校の4つの学びの場
- 家庭で見ておきたい6つの視点
先にお伝えしておくと、「様子を見ましょう」は「何もしないで待ちましょう」という意味ではありません。そして、入学までの時間でできることはちゃんとあります。
「様子を見ましょう」は”何もしなくていい”ではない
健診の場では、子どもの”いつもの姿”は見えにくい
就学前健診は、限られた時間の中で、たくさんの子どもを順番に見ていきます。しかも場所は、初めて行く小学校。知らない大人に囲まれて、待ち時間も長い。
大人でも緊張する状況です。ふだんはおしゃべりな子が黙りこんだり、いつもはじっと座れる子がそわそわしたり。健診での姿が、その子のいつもの姿とは限りません。
だからこそ、健診の場だけでは判断しきれないことがあります。「様子を見ましょう」は、多くの場合「問題なし」でも「問題あり」でもなく、「もう少し情報がほしい」というメッセージです。
(もちろん、健診の先生がどんな意図で伝えたかはケースによって違います。気になる場合は、健診を行った学校や教育委員会に「どんな点が気になったのか」を聞いてみて大丈夫です。)
“見る”のは、家庭と園でのふだんの姿
では、誰が何を見ればいいのか。
健診で見えなかった部分を補えるのは、毎日そばにいる保護者の方と、園の先生です。つまり「様子を見る」とは、ふだんの生活の中での姿を、少し意識して見てみるということ。何をどう見ればいいかは、このあと具体的にお伝えします。
入学までのスケジュールと、学びの場の選択肢
年長の秋〜冬の流れ
まずは全体の流れを押さえておきましょう。地域によって細かな違いはありますが、おおまかには次のとおりです。
| 時期 | できごと |
|---|---|
| 10〜11月 | 就学前健診(法律で、原則として入学の4か月前まで=11月末までに行うことになっています) |
| 秋〜冬 | 必要に応じて、教育委員会の就学相談 |
| 1月末まで | 教育委員会から、入学する学校の通知が届く |
就学相談の受付は、春ごろから始めている自治体も多くあります。でも、「もう遅いかも」とあきらめる必要はありません。まずはお住まいの市区町村の教育委員会に「健診で様子を見ましょうと言われたのですが、相談できますか」と問い合わせてみてください。
小学校の「学びの場」は4つあります
「就学相談」と聞くと、「普通のクラスに入れないってこと?」と身構えてしまう方もいます。でも実際には、小学校の学びの場には次のような選択肢があります。
| 学びの場 | ひとことで言うと |
|---|---|
| 通常の学級 | みんなと同じ教室で学ぶ。必要に応じて、席の位置や声かけなどの配慮を受ける |
| 通級指導教室 | 通常の学級に在籍しながら、週に数時間だけ別の教室で、その子に合った支援を受ける |
| 特別支援学級 | 少人数のクラスで学ぶ。原則として、授業のおおむね半分以上をこの学級で過ごす |
| 特別支援学校 | 障害の種類や程度に応じた、専門的な教育を行う学校 |
「通常の学級か、それ以外か」の二択ではなく、その子に合う場所を選ぶための選択肢がいくつもある、と考えてみてください。
決めるのは”親だけ”でも”学校だけ”でもない
国の方針では、就学先は本人と保護者の意見をできる限り尊重したうえで、教育委員会や学校と話し合って決めることになっています。一方的に決められるものではありません。
そしてもうひとつ、大事なことがあります。入学後に学びの場を変えることもできます。「今決めたら、6年間ずっとそのまま」ではありません。入学してからの様子を見て、より合う場所に移ることは珍しくありません。
「間違えたらどうしよう」と肩に力が入りすぎなくて大丈夫です。
家庭で見ておきたい6つの視点
ここからが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。
「様子を見る」といっても、ただ漠然と眺めていても、気になることはなかなか言葉になりません。そこで、6つの視点に分けて見てみることをおすすめします。
どれか1つだけが大事なのではなく、いくつかの視点を並べてみると、その子の全体像が見えてきます。
① からだの使い方
- 椅子に座っていると、だんだん崩れてくる・机にもたれかかる
- よく転ぶ、物や人によくぶつかる
- 階段の上り下りがこわごわしている
小学校では、45分間座って授業を受けることが求められます。「座る」は、実はからだにとってかなり大変な仕事です。姿勢が崩れやすい子は、集中力より先に体力を使い切ってしまうことがあります。(関連記事:発達が気になる子が疲れやすい原因とは?)
② 手先の使い方
- 鉛筆・はさみ・箸の使い方がぎこちない
- ボタンを留めるのに時間がかかる
- 折り紙やシール貼りを嫌がる
入学すると、ひらがなを書く、教科書をめくる、道具箱を片づけるなど、手先を使う場面が一気に増えます。(関連記事:はさみが苦手な子どもの原因と支援法/「不器用」は治らない?)
③ 感覚の受け取り方
- 大きな音や人混みが苦手で、耳をふさぐ・その場から離れる
- 服のタグや濡れた袖、手の汚れを極端に嫌がる
- 反対に、けがをしても痛がらない・ぐるぐる回ってもケロッとしている
教室はにぎやかで、チャイムも鳴り、給食のにおいもあります。感覚の受け取り方に偏りがあると、それだけで疲れてしまうことがあります。(関連記事:そのイヤ!には理由がある ― 感覚過敏のメカニズム)
④ 聞く・話す
- 一対一なら伝わるのに、「みんな〜しましょう」という全体への指示だと動けない
- 話が一方通行になりやすい、質問とずれた答えが返ってくる
小学校では、先生が全体に向けて話す場面が中心になります。「全体への指示で動けるか」は、園の先生にも聞いてみたいポイントです。(関連記事:言葉の遅れ、実は「姿勢」と「認知」が鍵だった)
⑤ 気持ちと集団
- 遊びから次の活動への切り替えに時間がかかる
- 負けたり、思いどおりにならなかったりすると大きく崩れる
- 友だちとのトラブルが続きやすい
こうした姿は「わがまま」や「協調性がない」と見られがちですが、背景には感覚やからだの使いにくさが隠れていることもあります。(関連記事:集団が苦手な子どもの理由とは?)
⑥ 生活の自立
- トイレ・着替え・食事を、自分でどこまでできるか
- 朝の支度に、どのくらい声かけや手伝いが必要か
小学校では、園よりも「自分でやる」場面が増えます。できる・できないより、「どのくらい手伝えばできるか」を見ておくと、学校に伝えるときにとても役立ちます。
見るときのコツ:「できない」より「どんな場面で」
6つの視点で見るときは、「できない」と書くのではなく、「どんな場面で・どのくらい困っているか」をメモするのがコツです。
- △「座っていられない」
- ◎「ごはんのとき、10分くらいで椅子からずり落ちてくる。床に座るとさらに崩れやすい」
こうした具体的なメモがあると、就学相談や専門職への相談でそのまま使えます。また、家と園とで姿がまったく違う子もたくさんいます。園の先生にも、同じ視点で「園ではどうですか?」と聞いてみてください。
入学までにやりがちな”逆効果”
不安になると、何かしなくちゃと焦ってしまうのは自然なことです。ただ、次のような関わりは、かえってお子さんを苦しくしてしまうことがあります。
ひらがなや計算の先取りばかりを急ぐ
「せめて勉強で困らないように」と、ドリルを増やしたくなる気持ちはよくわかります。でも、机に向かうための土台——座る姿勢、手先の動き、注意を向ける力——が整っていないと、勉強の時間そのものがつらい時間になってしまいます。先取りよりも、体を動かす遊びや、手先を使う遊びのほうが、結果的に近道になることも多いのです。(関連記事:運動すると頭が良くなる?)
「小学生になったら〜できないとダメだよ」と言い聞かせる
励ましのつもりでも、子どもにとっては「入学=こわいもの」になってしまうことがあります。入学は、楽しみに迎えられるほうがずっと良いスタートを切れます。
ネットのチェックリストで自己判断して落ち込む
この記事の6つの視点も含めて、チェックリストはあくまで目安です。当てはまる項目があっても、それだけで何かが決まるわけではありません。気になったら、ひとりで抱えずに相談してください。
迷ったときの相談先
「誰に相談すればいいかわからない」という方のために、主な相談先をまとめておきます。
- 市区町村の教育委員会(就学相談):学びの場や入学の手続きについて
- 園の先生:集団の中での様子を一番よく知っています
- かかりつけの小児科:体調や発達全般について
- 地域の発達相談窓口・児童発達支援センター:発達の専門的な相談について
また、「からだの使い方や手先の不器用さを、専門職に一度見てもらいたい」「園や学校への伝え方を一緒に整理したい」という方は、すこっぴーラボの公式LINEからもご相談いただけます。
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まとめ|入学までの時間は「知る時間」
最後に整理します。
- 「様子を見ましょう」は、「ふだんの姿を教えてください」というメッセージ
- 入学までの流れは「健診(〜11月)→ 必要に応じて就学相談 → 学校の通知(〜1月末)」
- 学びの場は4つ。話し合って決められるし、入学後に変えることもできる
- 家庭では6つの視点で、「どんな場面で・どのくらい」をメモしておく
健診で「様子を見ましょう」と言われてから入学までの数か月は、ただ待つだけの時間ではありません。わが子の得意なこと、苦手なこと、うまくいく条件を知るための時間です。
そうやって集めた「わが子のトリセツ」は、入学してからも、先生と話すとき、支援を考えるときに、ずっと役に立ちます。
不安なときこそ、ひとりで抱え込まずに。相談できる場所はたくさんあります。
参考にした資料
- 学校保健安全法 第11条、学校保健安全法施行令 第1条(就学時の健康診断の時期)
- 学校教育法施行令 第2条・第5条(学齢簿の作成、入学期日等の通知)
- 文部科学省「障害のある子供の就学先決定について」
- 文部科学省「特別支援学級及び通級による指導の適切な運用について(通知)」(令和4年4月27日)
※就学の手続きや相談の時期は、お住まいの自治体によって異なります。詳しくは市区町村の教育委員会にご確認ください。
この記事を書いた人:ゆうだい(理学療法士)/発達に特性のあるお子さんの運動・姿勢の支援を専門にしています。

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