すこっぴーラボ / 理学療法士ゆうだい
新学期が始まり、「新しいクラスで大丈夫かな」と心配していませんか?
給食の時間になると「くさい!」と泣き出す。
教室の蛍光灯の下にいるだけで、頭が痛くなる。
新しい服を着るのを、全力で拒否する――。
「私の育て方がいけないの?」と自分を責めていませんか?
これは育て方の問題ではなく、お子さんの脳が感覚を処理する「特性」の問題です。
新学期は環境変化によって感覚過敏や情緒不安定が出やすい時期。
早めの対策が大切です。
今回は、感覚過敏のメカニズムと家庭で今日からできる具体策を理学療法士の視点でお伝えします。
感覚過敏ってどういうこと?まず仕組みを知ろう
感覚過敏とは、音・光・においなどの刺激を「必要以上に強く感じてしまう」状態のことです。
私たちの脳は、外からの刺激を「どのくらい重要か」でフィルタリングしています。ところが感覚過敏のあるお子さんは、このフィルターがうまく機能せず、些細な刺激も「強い信号」として脳に届いてしまいます。
たとえば、給食のにおいが「強烈な異臭」に感じられたり、蛍光灯の光が「まぶしすぎて頭が痛い」という状態になったりします。
これは「我慢が足りない」のではなく、脳の情報処理の特性なのです。
4月・新学期はなぜ特につらい?
感覚過敏のあるお子さんにとって、4月は特にしんどい時期です。理由は「環境の変化」にあります。
- 新しい教室:机の配置、光の当たり方、においが変わる
- 新しいクラスメート:話し声の質・量が大きく変化する
- 新しい服・制服:素材感・締め付け感が変わる
- ルーティンの崩壊:慣れた流れが一気にリセットされる
脳が「安全かどうか」を判断するには時間がかかります。新しい刺激が一度にたくさん押し寄せてくる4月は、脳が常に緊張状態になりやすいのです。
理学療法士が教える「感覚ダイエット」という考え方
作業療法・理学療法の分野に「感覚ダイエット(Sensory Diet)」という考え方があります。
食事のバランスを整えるように、1日の中で受け取る感覚刺激をバランスよく調整するという考え方です。特別な器具や専門施設がなくても、日常の遊びや生活の中で取り入れられます。
大切なのは「刺激を遮断すること」ではなく、「適切な刺激を日常的に届けることで、脳のフィルター機能を育てる」こと。毎日の積み重ねが、お子さんの「感じやすさ」を少しずつ整えていきます。
おうちで今日から試せる遊びと工夫

遊び①:「ヘビーワーク遊び」― 体に重さや抵抗をかけて落ち着きを取り戻す
ヘビーワークとは、筋肉や関節に「重さ・抵抗」をかける活動のことです。
私たちの体には「固有覚(こゆうかく)」と呼ばれる感覚があります。これは筋肉や関節の動きを感じる感覚で、この感覚を刺激すると、脳が落ち着きやすくなります。重いものを持ったり、体を思い切り使う遊びがよく効くのはこのためです。
用意するもの: 水の入ったペットボトル・本の入ったリュック・雑巾(どれか1つでOK)
| 活動 | 刺激の強さ | やり方 |
|---|---|---|
| 重いリュックを背負って歩く | ★★★ | 水ボトルを入れたリュックを背負って10歩 |
| 壁をグーッと押す | ★★★ | 壁に両手をついて5秒押す(3回) |
| 雑巾がけ | ★★★ | 床を雑巾で力強く拭く(お手伝い兼用) |
| 重いものを運ぶお手伝い | ★★ | 本・お米・洗濯物かごを運ぶ |
| タオルで引っ張り合い | ★★★ | タオルを互いに引っ張り合う |
こんなときにおすすめ:
- 興奮・パニックになりそうなとき → ヘビーワーク後に自然とクールダウンできる
- 授業・食事の前 → 集中力や着席時間が改善しやすい
- 「もっとやりたい!」と子ども自身が求めるときは、固有覚が不足しているサインかもしれません
遊び②:「呼吸リセット遊び」― 自律神経を整える5分ルーティン
興奮しすぎたとき、パニック前、就寝前に効果的な呼吸を使った気持ちの切り替えです。
「ろうそく吹き消しゲーム」のやり方:
- 親が指を「ろうそく」に見立てて立てる
- 「吹き消せるかな?」と声をかける
- 3〜5秒かけてゆっくり長く息を吐く
- 吹き消せたら「ふしゅー!」と大げさに消えるフリをする
なぜ効くの?
ゆっくり長く吐く呼吸は、自律神経の「副交感神経」を活性化します。これが体を「リラックスモード」に切り替えるスイッチになります。ゲーム感覚にすることで、子どもが自然と深呼吸できるのがポイントです。
遊びの「質」を高める声かけ3原則
どんな遊びも、声かけひとつで効果が大きく変わります。理学療法士として大切にしている3つの原則をお伝えします。
原則1:結果ではなく「過程」を褒める
- × 「上手!」「すごい!」
- ○ 「今の、足がしっかり踏ん張れてたね」
- ○ 「さっきより腕がまっすぐ伸びてたよ」→ 子どもが「自分の体のどこが変わったか」に気づける言葉を選ぶと、次の行動につながります
原則2:指示は「1回に1つ」
- × 「足を開いて、腕を伸ばして、前を見て!」
- ○ 「前を見てごらん」(それだけ)→ 一度にたくさんの情報を処理するのが難しい子には、シンプルな指示が届きやすいです
原則3:「もう1回!」より「もっとやりたい?」
- 子どもに選ばせることで「自分で決めた」という感覚が生まれます
- 「楽しかった」という記憶で終わることが、次回への意欲につながります
先生・学校と連携するときのポイント
感覚過敏への配慮は、家庭だけでなく学校でも必要です。担任の先生に伝えるときは、以下のポイントを参考にしてください。
- 「困っている行動」ではなく「どんな刺激がつらいか」を伝える
例:「給食が嫌なのではなく、においに過敏で気分が悪くなっています」 - 「こうしてもらえると助かる」という具体的なお願いを添える
例:「席を窓から離してもらう」「帽子の着用を許可してもらう」 - 専門家(作業療法士・理学療法士)の意見書があると伝わりやすい
かかりつけの専門家がいる場合は、一筆書いてもらうことで学校の理解が得やすくなります
まとめ
- 感覚過敏は脳の情報処理の「特性」であり、しつけや努力の問題ではない
- 4月の新学期は環境変化が重なり、感覚過敏が悪化しやすい時期
- 「感覚ダイエット」の考えで、日常的に適切な刺激を取り入れることが大切
- ヘビーワーク・呼吸リセット遊びは、特別な道具なしで今日から始められる
- 声かけの3原則(過程を褒める・指示は1つ・子どもに選ばせる)で遊びの効果が高まる
- 学校には「困った行動」ではなく「何がつらいか」を具体的に伝える
おわりに ― 理学療法士ゆうだいから
最後に、ひとつだけ伝えさせてください。
支援は「頑張ること」じゃなく、「仕組みを作ること」です。
毎日全力で子どもに向き合わなくていい。
「このルーティンをやれば整う」という仕組みを少しずつ作っていく。
それだけで、お子さんも親御さんも、ずっと楽になります。
今日紹介した遊びや工夫は、どれも「仕組み化しやすいもの」を選んでいます。
まずは1週間、1つだけ続けてみてください。
理学療法士 ゆうだい
参考文献
- Ayres, A. J. (1972). Sensory Integration and Learning Disorders. Western Psychological Services.
- Miller, L. J., et al. (2007). Concept evolution in sensory integration. American Journal of Occupational Therapy, 61(2), 135–140.
- Schaaf, R. C., & Davies, P. L. (2010). Evolution of the sensory integration frame of reference. American Journal of Occupational Therapy, 64(3), 363–367.


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