「不器用だから」「練習が足りないから」――
そう思ってしまいがちですが、はさみを使う動作は、実はとても複雑です。
指・手・体幹・目と手の連携など、いくつもの発達の要素がそろって、初めて上手に切れるようになります。
この記事では、理学療法士・発達支援の視点から、はさみが苦手な理由を分解し、家庭や療育現場でできる支援方法、
そして自助具(動作を助ける道具)という選択肢をわかりやすく解説します。

はさみ操作はなぜ難しいのか
はさみを使うときは、片方の手で刃を開いたり閉じたりしながら、もう片方の手で紙を支えて少しずつ動かします。
左右の手がそれぞれ違う役割をする、難しい動きです。
さらに、目で線を追いながら手を動かす力や、力加減の調整、体を安定させる力まで必要です。
これらが積み重なって、初めて「うまく切れる」という結果につながります。
つまり「はさみが使えない」という困りごとの裏には、
一つではなく、いくつもの要因が重なっている可能性があります。
原因を分けて考えることが、支援のヒントになります。
はさみが苦手な子どもに多い5つの背景要因
① 両手をうまく使い分ける力(両手協応)がまだ育っていない
利き手と反対の手が、それぞれ違う役割を同時にこなす動きです。
紙を支える手が動いてしまい、切りたい線から刃がずれてしまう子によく見られます。
② 指を分けて使う力(手指の分化)がまだ育っていない
本来、はさみは親指・人差し指・中指で操作し、薬指・小指で支えます。
この使い分けが未熟だと、手全体でギュッと握ってしまい、細かい開閉ができません。
③ 体幹・肩まわりの安定性が足りない
見落とされがちですが、手先の器用さは体幹や肩が安定して初めて発揮されます。
座る姿勢が崩れやすい子は、土台が不安定なために手先の動きも乱れてしまうことがあります。
④ 目と手を合わせて動かす力(視覚と運動の協調)がまだ育っていない
目で線を追いながら手を動かす力が育っていないと、はさみの開閉はできても、線からどんどんずれてしまいます。
⑤ 感覚面の課題
紙の感触や手が汚れることが苦手(触覚が敏感)だったり、力加減がうまくつかめなかったり(体の内側の感覚が育ちにくい)することも、はさみを嫌がる背景にあります。
他の場面でも当てはまるとき「発達性協調運動症(DCD)」について
はさみだけでなく、箸や書字、着替え、自転車など、いろいろな場面で同じような不器用さが続く場合は、「発達性協調運動症(DCD)」という状態が関係していることがあります。
DCDは、年齢相応の協調運動を身につけたり行ったりすることが難しい状態です。
発生率は5〜8%程度とされ、決して珍しいものではありません。練習不足が原因ではなく、脳や神経系の特性によるものと考えられています。
支援では、理学療法がバランスや筋力など体全体の土台づくりを、作業療法がはさみや書字など手先の動きの獲得を担うことが多く、両者が連携することで支援の質が高まります。
※ DCDの診断は医師のみが行えます。
「うちの子はDCDかもしれない」と感じても、この記事の情報だけで判断せず、専門機関へ相談することをおすすめします。
家庭・療育現場でできる支援ステップ
ステップ1:土台をつくる(体幹・肩まわり)
高這い、手押し車、うつ伏せでの遊びなど、肩や体幹に体重をかける活動を日常に取り入れましょう
座る姿勢も、足の裏がしっかり床につくよう椅子の高さを調整するだけで、安定感が変わります。
ステップ2:はさみの前段階の練習をする
洗濯ばさみをつまむ動作や、紙をちぎる・丸める遊びは、指を分けて使う力を育てる良い準備運動になります。
いきなりはさみを持たせず、この段階を丁寧に踏むことが、遠回りのようで実は近道です。
ステップ3:段階を踏んではさみを導入する
- ① 開閉のみ:細い紙片を一回の開閉で切る
- ② 直線切り
- ③ 曲線・角のある形を切る
- ④ 複雑な図形の切り抜き
いきなり難しい課題に挑戦させず、「できた」という成功体験を積み重ねられる順番で進めることが大切です。
ステップ4:声かけと環境の工夫
力加減がつかめない子には、少し厚みのある紙を使うと、手ごたえを感じやすくなります。
うまく切れた瞬間は具体的な言葉でほめ、失敗しても叱らず、興味を持てる環境をつくることを優先しましょう。
自助具というサポートの選択肢
動作を単純にして、成功体験を積みやすくする「自助具(じょじょぐ)」も、支援の選択肢の一つです
どの部分の困りごとを補いたいかで、選ぶタイプが変わります。
開閉動作そのものを補助するタイプ
握る力だけで自動的に開く構造や、輪っかを握るだけで切れる構造のものがあります。
指を分けて使うのがまだ難しい段階や、握力・持久力に課題がある子どもに向いています。
両手の動きをガイドするタイプ
支援者と子どもがそれぞれ持ち手を持ち、一緒に操作できるものもあります。
はさみが動く感覚を体で学ぶ、運動学習の橋渡しとして活用できます。
刃・素材で難易度を調整するタイプ
プラスチック刃は安全性が高く、切れ味がやわらかい分、力の調整がしやすいので練習用に向いています。
刃先が平らで安全性の高いタイプは、ある程度の握力が必要になる点も踏まえて選びましょう。
握りやすさを補助する周辺グッズ
グリップを太くするアタッチメントや、正しい指の位置に導くガイド付きのものなど、はさみ本体以外にも握り方の学習をサポートする道具があります。
大切なのは、自助具はあくまで「代わりに助けるもの」であって「訓練そのもの」ではないという視点です。
道具で成功体験を積みながら、並行して通常のはさみへ移行する計画を持っておきましょう。
使いっぱなしにせず、子どもの発達に合わせて見直していくことが望ましいです。
こんなサインが見えたら、専門家への相談を
- はさみ以外にも、箸や着替え、書字など複数の場面で同じような不器用さが目立つ
- 5歳を過ぎても大きな変化が見られない
- 転びやすい、姿勢が崩れやすいなど、体の動き全体にも困りがある
- 「できない」ことへの苦手意識が強くなり、挑戦を避けるようになってきた
こうしたサインが見られる場合は、かかりつけの小児科や地域の保健センター、児童発達支援センターなどへの相談を検討してみてください。
また、公式LINEに登録して頂ければ初回無料でzoom相談も可能ですのでお気軽にご連絡ください。

まとめ
はさみが苦手という一つの困りごとの背景には、両手の使い方・指の使い方・体幹の安定・目と手の協調・感覚面など、いくつもの発達の要素が関わっています。
「不器用だから」で終わらせず、どこにつまずきがあるのかを分けて見ていくことで、その子に合った支援のヒントが見えてきます。
焦らず、小さな成功体験を積み重ねながら、その子のペースに寄り添っていきましょう。

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