「ほら、鼻かんで!」
ティッシュを渡すと、鼻をすすってしまう。息を出しているつもりでも、ティッシュがまったく揺れない。手洗いは水をちょっとつけて終わり。マスクはすぐあごまで下げてしまう。——かぜやインフルエンザがはやり始めるこの季節、こんなやりとりが毎日のバトルになっていませんか。
「何回教えてもできない」「もしかして、ふざけてる?」
でも実は、鼻かみ・うがい・手洗い・マスクは、大人が思っている以上に“からだの使い方”と”感覚”の力が必要な動作です。できないのは、やる気の問題ではないことが多いのです。
この記事では、理学療法士の視点から次のことをお伝えします。
- 鼻かみ・うがい・手洗い・マスクに、どんな力が必要なのか
- うまくできない5つの理由
- 家で遊びながらできる練習
※かぜやインフルエンザの予防・治療については、かかりつけ医や公的機関の情報をご確認ください。この記事では、予防の基本となる動作を「からだの使い方」の視点から解説します。
鼻かみ・うがい・手洗いは、実は”難しい動作”
大人は何も考えずにできてしまうので気づきにくいのですが、これらの動作には、いくつもの力が同時に必要です。
| 動作 | 必要な力 |
|---|---|
| 鼻かみ | 口を閉じたまま、鼻だけから息を出す/片方の鼻を押さえる/息の強さを調整する |
| うがい | 口に水をためる→上を向く→のどで「ガラガラ」→吐き出す、という順番(口の中で「ブクブク」するより難しい) |
| 手洗い | 手のひら・手の甲・指の間・親指・指先・手首を順番に洗う手順/両手を協力させて動かす |
| マスク | 顔や耳に何かが触れている感じ、こもる息の感じに慣れる |
こうして並べてみると、「教えればすぐできる」ものではないことが見えてきます。
うまくできない5つの理由
理由はひとつではなく、いくつかが重なっていることがよくあります。
① 息のコントロール
鼻かみでいちばん難しいのは、口と鼻の息を分けることです。口が開いたままだと、息は口から逃げてしまい、鼻からは出ません。ふだんから口がぽかんと開いていることが多い子、口呼吸が多い子は、特にこの「分ける」感覚がつかみにくいことがあります。
また、「フン!」と短く強く息を出すのも、実は練習が必要な動きです。
(関連記事:言葉の遅れ、実は「姿勢」と「認知」が鍵だった)
② からだの使い方
うがいの「ガラガラ」は、上を向いた姿勢を保ったまま、のどの奥で水をとどめておく動作です。首や体幹が安定していないと、上を向いた瞬間に水が飲み込まれたり、こぼれたりしてしまいます。
手洗いは、両手を協力させて動かす動作です。片方の手で、もう片方の指の間をこする。左右で違う動きをするのが苦手な子にとっては、意外と難しい作業です。
(関連記事:はさみが苦手な子どもの原因と支援法)
③ 感覚
冷たい水、ぬるぬるした石けん、マスクのゴムが耳に当たる感じ、マスクの中にこもる息。感覚が敏感な子にとって、これらはとても不快な刺激です。手洗いがさっと終わってしまうのも、マスクをすぐ外すのも、「イヤな感覚から早く逃げたい」というからだの反応かもしれません。
反対に、感覚が届きにくい子は、鼻水が垂れていても気づかないことがあります。
(関連記事:そのイヤ!には理由がある ― 感覚過敏のメカニズム)
④ 手順を覚えること
手洗いもうがいも、決まった順番で進める動作です。「何をどの順番でやるか」をことばだけで覚えるのが苦手な子は、途中で何をすればいいかわからなくなり、結果的に「ささっと終わらせる」ことになります。
⑤ 見る力と注意
鏡を見ながら「ちゃんと洗えているか」を確かめる、鼻水が出ているかを鏡で確認する。こうした見て確かめることが難しい子もいます。また、洗面所に好きなおもちゃがあると、途中で気がそれてしまうこともあります。
家でできる練習:遊びにするのがコツ
どの動作も、「ちゃんとやって」と言うよりも、遊びの中で必要な力を育てるほうが近道です。
鼻かみの練習
- 鼻息でティッシュを揺らす:口を閉じて、鼻の前にティッシュを1枚垂らし、「フン!」で揺らせたら成功
- 鏡を曇らせる:口を閉じて鼻息で手鏡を曇らせる。曇った跡が目に見えるのでわかりやすい
- できるようになったら、片方の鼻を押さえて片方ずつ
息をコントロールする遊び
- 吹き戻し(ピロピロ笛)、ストローで紙玉を吹いて転がす、シャボン玉
- 口を閉じる練習には、ストローで飲み物を飲む、口に空気をためて「ほっぺたふくらませ」遊びなど
うがいの練習
- まずは「ブクブクうがい」から。口に水をためて、ほっぺを動かして吐き出す
- 「ガラガラうがい」は、上を向いて少し止まる練習と分けて。最初は水なしで「上を向いて『あー』と声を出す」だけでもOK
手洗いの練習
- 手順を絵カードにして洗面所に貼る(手のひら→手の甲→指の間→親指→指先→手首)
- 手洗いの歌に合わせて洗う。「歌が終わるまで」という終わりの目安があると続けやすい
- 冷たい水がつらい子は、ぬるま湯から。泡で出てくる石けんを使うと、ぬるぬる感が苦手な子も取り組みやすくなります
マスクに慣れる
- 家で、好きなテレビを見ている間だけなど、短い時間から
- 素材(ガーゼ・不織布など)、大きさ、ゴムのやわらかさを本人と一緒に選ぶ
- どうしてもつけられない場合は、無理をせず、学校や園の先生に相談を
やりがちな”逆効果”
鼻水が出るたびに、大人が全部かんであげる
急いでいるときは仕方ありませんが、毎回だと自分でやってみる機会がなくなってしまいます。時間に余裕のあるときだけでも、「自分でフンってしてみよう」と声をかけてみてください。
嫌がるマスクを、叱ってつけさせる
感覚の不快さが理由の場合、叱られても不快さは消えません。「マスク=イヤなもの」という記憶が強くなるだけになりかねません。
「何回言ったらわかるの」と、ことばだけで繰り返す
ことばで覚えるのが苦手な子には、何度言っても届きにくいことがあります。目で見てわかる工夫(絵カード・お手本を見せる)に切り替えてみてください。
相談の目安
- いつも鼻がつまっている、いびきが大きい、口呼吸が続く → まずは耳鼻科や小児科へ
- 着替え・箸・ボタンなど、ほかの生活動作も全般的に苦手 → 専門職への相談を
- 感覚の苦手さが強く、日常生活に困りごとが多い → 専門職への相談を
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まとめ|「しつけ」の前に「からだの使い方」
- 鼻かみ・うがい・手洗い・マスクは、いくつもの力が必要な難しい動作
- できない理由は、息・からだの使い方・感覚・手順・見る力の重なり
- ことばで注意するより、遊びにして少しずつ育てる
かぜの季節は、親も子もバタバタしがちです。でも、「どうしてできないの?」を「どこが難しいのかな?」に変えるだけで、声のかけ方がぐっと変わります。この冬、ひとつずつ一緒に練習してみてください。
参考にした資料
この記事を書いた人:ゆうだい(理学療法士)/発達に特性のあるお子さんの運動・姿勢の支援を専門にしています。

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