「ほら、持ち方!」
宿題を見ていると、つい口から出てしまうこのひと言。
言われた瞬間は直すけれど、数行書くと、また元のぎゅっと握った持ち方に戻っている。
そんな毎日に、ちょっと疲れていませんか。
「何回言っても直らない」
「このまま変な持ち方で固まってしまったらどうしよう」
「矯正グッズを使ったほうがいいの?」
実は、鉛筆の持ち方が直らないのは、お子さんのやる気や注意力の問題とは限りません。
持ち方は、指先だけでなく、手首・肩・姿勢・感覚・見る力など、いろいろな力が合わさった“結果”として表れるものだからです。
この記事では、理学療法士の視点から次のことをお伝えします。
- 持ち方について、まず知っておいてほしい大事なこと
- 持ち方が直らない5つの理由
- 注意するより効果的な、家でできる土台づくり
大事なのは「持ち方」より「書きやすさ」
持ち方は、成長とともに変わっていく
小さな子がクレヨンを持つとき、最初はグーで握るように持ちます。
そこから少しずつ指先で持てるようになり、親指・人さし指・中指の3本で支える、いわゆる「正しい持ち方」に近づいていきます。
この移り変わりには個人差がとても大きく、年長さんや小学1年生の時点で、まだ途中の段階にいる子も珍しくありません。
研究でわかっていること
小学4年生を対象にした海外の研究では、教科書どおりの持ち方の子と、それとは少し違う持ち方の子とで、書く速さや字の読みやすさに大きな差は見られなかったと報告されています。
つまり、いちばん大切なのは「見た目がお手本どおりか」ではなく、
- 疲れずに書けているか
- 読める字が書けているか
- 痛みがないか
ということ。この3つがクリアできているなら、持ち方を無理に直すことにこだわりすぎなくても大丈夫です。
反対に、「すぐ手が疲れる」「字が読みにくい」「手が痛いと言う」場合は、持ち方の奥にある原因を見てあげるサインです。
持ち方が直らない5つの理由
「持ち方」は手の先で起きていることですが、原因は手の外にあることもよくあります。ひとつだけでなく、いくつかが重なっていることも多いです。
① 指と手のひら:指がバラバラに動きにくい
3本の指で鉛筆を支えるには、親指・人さし指・中指を使い、薬指と小指は軽く丸めて休ませておく、という指の役割分担が必要です。また、手のひらに丸い「アーチ」がつくれることも大事です。
指がまだ一緒に動いてしまう段階だと、鉛筆を手のひら全体で握り込むほうが安定するため、自然と握り持ちに戻ってしまいます。
② 手首と腕・肩:土台がグラグラしている
指先を細かく動かすには、その手前にある手首・ひじ・肩がほどよく安定していることが必要です。
腕がグラグラしていると、その揺れを指先でおさえようとして、鉛筆をギュッと握り込むことになります。
手首が手のひら側に曲がりすぎている(手首を「く」の字に巻き込んで書く)子も、指先が動かしにくくなります。
③ 姿勢と机・椅子:書く環境が合っていない
椅子が高すぎて足が床につかない、机が高すぎて肩が上がる——こうした環境では、からだを支えることに力を使ってしまい、手先に余裕がなくなります。
これは本人の努力では変えられない部分なので、大人が整えてあげられるいちばん簡単なポイントでもあります。(関連記事:姿勢が悪い小学生への運動療育5選)
④ 感覚:力加減がつかみにくい
手や指から「今どのくらいの力で握っているか」「鉛筆がどこにあるか」という情報が脳に届きにくい子がいます。そうした子は、強く握ることで「持っている感じ」を確かめようとすることがあります。
筆圧がとても強い、鉛筆の芯がよく折れる、書いたあと手が真っ赤になる——という場合は、この視点で見てみてください。反対に、筆圧がとても弱く、薄い字になる子もいます。
(関連記事:「うるさい!まぶしい!」の奥にある科学 ― 家庭でできる感覚調整術)
⑤ 見る力:書いている先が見えにくい
鉛筆の先と、書いている文字を目で追えないと、子どもは見えやすくするために持ち方や手首の角度を変えます。鉛筆の先がすぐ近くにくるように短く持ちすぎたり、手首をぐっと曲げて覗き込むように書いたりするのは、そのためのこともあります。
顔を紙にとても近づけて書く、行がずれやすいといった様子があれば、目の使い方も気にかけてみてください。
+α 道具:鉛筆そのものが合っていない
長すぎる鉛筆は先が重く、短くなりすぎた鉛筆は持つ場所がありません。また、硬くて薄い芯(HBなど)だと、濃く書こうとして力が入りやすくなります。低学年のうちは、2Bや4Bなどの濃くてやわらかい芯のほうが、軽い力で書けます。
家でできること:持ち方を”言う”より”育てる”
持ち方そのものを口で直すよりも、持ちやすくなる土台を遊びの中で育てるほうが近道です。理由ごとに、家で取り入れやすいものを紹介します。
| 理由 | 家でできること |
|---|---|
| ① 指と手のひら | 折ったクレヨン(2〜3cm)でお絵かき/洗濯ばさみで遊ぶ/粘土で小さな玉をつくる/トングでおはじきをつまむ |
| ② 手首と腕・肩 | 壁や窓に貼った紙(縦の面)にお絵かき/雑巾がけ/手押し車ごっこ |
| ③ 姿勢と環境 | 足の裏が床(または台)につく椅子/机はひじを置いたときに肩が上がらない高さ |
| ④ 感覚 | 書く前に手のひらをこすり合わせる・グーパーをする/粘土や砂など、手ごたえのある遊び |
| ⑤ 見る力 | 線つなぎ・迷路/書く量より、ゆっくり丁寧になぞる練習 |
| +α 道具 | 2B〜4Bの芯/三角鉛筆など太めの鉛筆/新しい長い鉛筆は少し短めに |
特におすすめなのが、短く折ったクレヨンと縦の面でのお絵かきです。
- 短いクレヨンは、手のひらで握り込むことができないので、自然と指先でつまむ持ち方になります
- 縦の面に描くと、手首が自然に起きた(手の甲側に少し反った)形になり、指先が動かしやすくなります
どちらも「練習」ではなく、遊びとして楽しめるのがポイントです。(関連記事:はさみが苦手な子どもの原因と支援法/小学生の体幹と感覚を育てる「療育運動遊び」8選)
やりがちな”逆効果”
書くたびに「持ち方!」と注意する
注意されるたびに、子どもは「書くこと=怒られること」と感じやすくなります。持ち方を意識すると字に集中できなくなるので、字の練習と持ち方の練習は、時間を分けるのがおすすめです。
嫌がる矯正グッズを無理につける
鉛筆に取りつける補助具は、合う子にはとても助けになります。ただ、嫌がっているのに無理につけると、書くこと自体が嫌いになってしまうことも。本人が「これ書きやすい」と言うものを選ぶのが一番です。
「たくさん書けば慣れる」と量を増やす
土台が整っていないまま量を増やすと、疲れて崩れた持ち方のほうが身についてしまいます。少ない量を、ていねいに。量より質を大事にしてください。(関連記事:子どもに無理させてない?脳が「学べなくなる」境界線とは)
相談の目安
次のような様子が続くときは、一度専門職に相談してみてください。
- 書くと手や指を痛がる
- 少し書いただけですぐ疲れる、休憩が多い
- 本人も読み返せないくらい、字が読みにくい
- 書くこと自体を強く嫌がる・宿題のたびに泣いてしまう
- はさみ・箸・ボタンなど、ほかの手先の作業も苦手
持ち方の困りごとは、協調運動(からだをうまく使う力)のつまずきの一つとして表れていることもあります。
「うちの子の場合、どこに原因がありそう?」と気になった方は、すこっぴーラボの文字書きのつまずきチェック(無料)で、まずは当たりをつけてみてください。姿勢・肩・指・感覚・目の使い方など、いくつかの視点から整理できます。
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まとめ|持ち方は「直す」より「育てる」
- 持ち方は成長とともに変わるもの。個人差が大きい
- 大事なのは見た目より、疲れず・読める字が・痛みなく書けるか
- 直らない理由は、指先だけでなく手首・肩・姿勢・感覚・見る力・道具にあることも
- 注意するより、短いクレヨン・縦の面のお絵かき・環境の調整で土台を育てる
「持ち方!」と言いたくなったら、ひと呼吸おいて、「どうしてこの持ち方になっているんだろう?」と観察してみてください。その子なりの理由が見えてくると、声のかけ方も、手の貸し方も、きっと変わってきます。
参考にした資料
- Schwellnus H, et al. Effect of pencil grasp on the speed and legibility of handwriting in children. American Journal of Occupational Therapy. 2012;66(6):718-726.
- Schneck CM, Henderson A. Descriptive analysis of the developmental progression of grip position for pencil and crayon control in nondysfunctional children. American Journal of Occupational Therapy. 1990;44(10):893-900.
この記事を書いた人:ゆうだい(理学療法士)/発達に特性のあるお子さんの運動・姿勢の支援を専門にしています。

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