「走り方が他の子と違う気がする…」「運動会が近づくと、うちの子が不安そうで…」
そんな悩みを抱える保護者の方は、実は少なくありません。走るという動作は、ただ体を動かすだけでなく、バランス感覚や視覚、体幹の安定性など、さまざまな発達の要素が組み合わさって成立しています。
本記事では、理学療法士の視点から「走るのが苦手・ぎこちない子」の背景と、家庭でできる支援方法を詳しく解説します。
◆ 走るのが苦手な子によく見られる特徴
走るのが苦手な子どもには、次のような特徴が見られます。
- 腕が上手く振れず、体の前でバタバタする
- 足が上がらず、つま先が引っかかりやすい
- 姿勢が前かがみ、または上半身がブレやすい
- スピードを出すのが怖くて、慎重に走る
- スタートや止まる動作に時間がかかる
これらの動きのぎこちなさの裏には、「発達のアンバランスさ」が隠れていることがあります。
◆ 発達から見る“走る動作”の土台
【1】体幹の安定性
走るときは、両脚が交互に素早く動くだけでなく、全身のバランスを維持する必要があります。体幹(胴体部分)がしっかりと安定していないと、手足をスムーズに使うことができません。
特に幼児期から小学生低学年では、姿勢保持に必要な筋肉がまだ発達途中。
腹筋・背筋などの抗重力筋が弱いと、姿勢が崩れて走りにくくなります。
【2】固有受容感覚(深部感覚)
筋肉や関節から伝わる「自分の体が今どこにあるか」という感覚が鈍いと、力加減や動きのコントロールが難しくなります。そのため、走るリズムが崩れたり、極端に力んだ動きになることもあります。
【3】前庭感覚(バランス感覚)
走る際には、前に進む勢いと重力の影響を受けながら姿勢を保つ必要があります。前庭感覚が未成熟だと、スピードに対する不安や怖さが強く、慎重すぎる走り方になることがあります。
【4】視覚・視空間認知
走っている最中に、障害物や他の人を避けるためには視覚情報の処理能力も必要です。空間把握が苦手な子は、人や物との距離感をつかむのが難しく、スムーズに走れないことがあります。
◆ 「ぎこちなさ」の原因となる身体の課題
走り方がぎこちない子には、次のような身体的な課題がある場合もあります。
- 姿勢が崩れやすい(猫背・反り腰)
- 筋力のアンバランス(特に股関節や足関節)
- 足のアーチが未発達(偏平足、浮き指など)
- 協調運動の困難(手足をバラバラに動かすのが苦手)
これらの課題は、日常生活の中では気づかれにくいことも多いため、「なんとなく運動が苦手」という印象につながってしまいます。
◆ 家庭でできる!走る力を育てる運動遊び
以下の運動遊びは、走るための基礎力を養うのに効果的です。親子で楽しみながら取り組んでみてください。
【1】けんけんぱ
片脚でバランスを取る練習や、ジャンプするリズム感を養います。走るときのリズムと体重移動の基礎になります。
【2】四つ這い・クマ歩き
体幹と肩甲帯の安定性を高めます。手足を交互に動かす協調運動の練習にもなります。
【3】坂道ダッシュ
緩やかな上り坂を使って短距離ダッシュをすると、自然と膝を高く上げる動作が促されます。
【4】ボール蹴りやキャッチボール
視覚と動作の協応力を高める遊びです。目で見たものに対して体を素早く動かす練習になります。
【5】綱引き・タオル引っ張り
下肢と体幹の筋力強化になります。走るときの「地面を押す力」を育てるのに有効です。
◆ 靴選びも重要なポイント
走りやすさには、靴のフィット感も大きく関わっています。大きすぎる靴や柔らかすぎる靴底では、足が正しく機能しません。次のポイントを押さえましょう。
- かかとがしっかりしていて、足首を支えてくれる
- つま先に少し余裕があり、指がしっかり使える
- 足の甲をしっかり固定できる(マジックテープや靴ひも)
市販の「足育」対応のシューズや、中敷きを活用するのも一つの方法です。
◆ いつ、専門家に相談するべき?
以下のような様子が見られる場合は、発達支援センターや理学療法士に相談することをおすすめします。
- 年齢相応の動作が極端に苦手(走る、ジャンプなど)
- 運動に対して強い不安や拒否反応がある
- 姿勢保持や日常動作にもぎこちなさがある
- 学校での体育や集団活動について担任から指摘があった
早めに相談することで、適切な評価や支援、運動プログラムが受けられ、子ども自身の「できる」が増えていきます。
◆ おわりに
走るのが苦手に見える子どもたちの中には、実は身体や感覚の発達段階に応じた「つまずき」が隠れていることがあります。ただ「練習すれば走れるようになる」という視点だけではなく、「今の発達段階で何が得意で、何が課題か」を理解しながらサポートしていくことが大切です。
運動が好きになるきっかけは、小さな「できた!」の積み重ね。走る楽しさを取り戻すために、まずは親子で遊びの中に運動を取り入れてみてください。
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