書くことが苦手な子どもたちへ〜黒板の書き写し・模写ができない背景と支援のヒント〜

感覚

「ノートをとるのがすごく遅い」「黒板の文字をうまく写せない」「マスの中に文字が収まらない」

学校現場やご家庭で、こんな悩みを持つ子どもを見かけたことはありませんか?

「ただの不器用」「練習不足」と片付けられがちな“書字の苦手さ”には、実は体や感覚、視覚の発達の土台に原因があることが多いです。

実は、絵や文字を書くためには手の力だけでは不十分です。

私たちは身体全体の土台と感覚が発達してこそ、正確に文字を操ることができているんです。


今回は、書字の苦手さの背景にある身体機能の視点から、原因と支援方法を丁寧に解説していきます。


書くことが「苦手な子」に見られる行動例

まずは、実際によく見られる行動や特徴を紹介します。

  • ノートを取るのに時間がかかる
  • 黒板の文字を写すと順番がバラバラ
  • 書いた文字の大きさや形がバラバラ
  • 筆圧が弱すぎたり、逆に強すぎる
  • 書くときに姿勢が崩れたり、顔を近づけすぎる
  • 字を書いている最中に集中が途切れやすい

こうした困りごとは、単に「書き方がヘタ」という話ではなく、複数の感覚や身体要素が未熟なために起こっている可能性が高いのです。


書字や模写に関わる「体と感覚」の発達要素

【1】体幹・姿勢の安定性

書く動作のベースになるのは、「安定した座位姿勢」です。
体幹がしっかり支えられていないと、手先を細かく使おうとしても力が分散してしまい、うまくコントロールできません。

  • 背もたれに寄りかかる
  • 足が浮いている
  • 体が斜めに傾く

このような座り方では、書字動作そのものが難しくなります。

💡 支援のヒント:

  • 足の裏がしっかり床につくよう調整(足台の使用も可)
  • 背中と椅子の隙間にクッションを挟む
  • 書く前に体幹を刺激する運動(体幹ひねり、ブリッジ、四つ這いバランス)を入れる

【2】前庭動眼反射(VOR)の未熟さ

黒板の文字を見て→ノートに目線を移し→また黒板を見る、という一連の動きには、頭の動きに合わせて視線を安定させる能力が必要です
これが「前庭動眼反射(Vestibulo-Ocular Reflex)」。この機能が未熟だと、視線がブレて焦点が合わず、何度も黒板とノートを見直すことになり、非常に疲れやすくなります。

💡 支援のヒント:

  • 顔を動かしながら視線を一点に固定する練習(例:顔を左右に動かしながら指先を見る)
  • ゆっくり回る・揺れる遊び(バランスボール、回転椅子)で前庭感覚を育てる

【3】頸部(首)の固定力と眼球運動

黒板を見たりノートを書くには、首を安定させつつ、目だけを動かす能力が求められます。
この「頸部の固定力」が弱いと、書くときに顔をノートに近づけすぎたり、視線がズレやすくなります。

また、眼球運動のコントロールが未熟だと、文字を追えない・書き写す位置がズレるといった困りごとが現れます。

💡 支援のヒント:

  • 壁を使った「壁押し四つ這い」や「お辞儀キープ」で首と体幹をつなげる
  • 眼球運動トレーニング(目だけで上下左右に動かす・8の字を目で追う)
  • 顔を動かさずに視線だけ動かす練習を習慣にする

【4】視空間認知・模写能力の課題

書き写しや模写には、空間的な配置の理解と再現が求められます。
これを「視空間認知」と呼びますが、これが未熟な場合には以下のような特徴が見られます。

  • 文字の配置や順番がバラバラ
  • マスの中にうまく収まらない
  • 図形の模写が極端に崩れる

💡 支援のヒント:

  • 模写の前に「全体を見る→部分を見る」ステップを言語化して教える
  • ビー玉迷路・パズル・点つなぎなどで空間認知力を楽しく育てる
  • マスの線や色つき補助線を使って視覚的ガイドをつける

【5】感覚統合(特に触覚・固有感覚・前庭感覚)

「書く」という行為は、細かく分けると、

  • 鉛筆の握り加減(触覚・固有感覚)
  • 手首・肘・肩の安定(固有感覚)
  • 書くときの姿勢・バランス(前庭感覚)

など、多くの感覚が統合されて初めて成立する複雑な動作です。
どれか一つでも未熟な部分があると、文字を書くことに必要以上の努力が必要になり、結果として集中力が続かなくなります。


書字が苦手な子におすすめの「運動メニュー」10選

家庭や教室でも取り入れやすい運動を、支援の意図とともに紹介します。

① タオル綱引き

👉 手・腕・肩の固有感覚を強化。姿勢の安定につながる。

② 四つ這いくずし(左右に押す)

👉 体幹と肩の固定力を養う。安定した書字姿勢の基盤に。

③ ブランコやスイング遊び

👉 前庭感覚を育て、目と頭の協調を促す。

④ 目の追跡運動(8の字トレーニング)

👉 眼球運動の柔軟性と視線のコントロールを高める。

⑤ ボールの弾み模倣

👉 空間認知とリズムの感覚を養う。視線の移動練習にも。

⑥ 鏡模倣運動(片手ずつ・両手で)

👉 空間模写力と左右の認識力を鍛える。

⑦ お辞儀キープ(頸部・体幹安定)

👉 書くときの頭の位置を意識づける基礎トレーニング。

⑧ 指なぞり文字(紙に書いた文字を指でなぞる)

👉 書く前の触覚刺激と運動予測を促進。

⑨ ひじつけ書き練習(肘を机に固定)

👉 姿勢が崩れやすい子の安定を助ける。

⑩ 点つなぎ・迷路・塗り絵

👉 楽しく空間認知力・眼球運動・視線の切り替えをトレーニング。


「書けない」には理由がある

〜困っているのは子ども自身〜

大人にとっては「ただ文字を書くこと」でも、子どもにとっては複雑な体と感覚の協調作業
書けないことで自己肯定感を失い、「もっとやりたくない」という悪循環に入ってしまうことも少なくありません。

「どうしてこの子は書くのが苦手なんだろう?」
そんなふうに一歩踏み込んで見つめてみると、子どもたちが自分の力を発揮できるきっかけがきっと見つかります。

大切なのは、苦手さに気づき、それを“責める”のではなく“支える”こと

感覚や姿勢、視覚の働きに目を向けると、「支援の糸口」はたくさんあります。
そしてその一歩が、「書くのが楽しい!」という気持ちにつながっていきます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました