発達支援の視点から考える「子どもの偏食」とその向き合い方

学校

「野菜は全く食べない」「白いごはんしか食べてくれない」「せっかく作っても一口も食べない」
子どもの偏食に悩む親御さんや支援者はとても多いものです。

でも、その背景には“わがまま”だけではない、感覚や発達、心や体の個性が隠れていることも少なくありません。

本記事では、偏食の科学的な根拠や最近の研究知見をもとに、「なぜ起こるのか」「どう向き合うか」をわかりやすく解説し、
保護者・支援者が“気持ちが楽になる”ためのポイントや実践アイディアもご提案します。


■なぜ偏食は起きるのか?

●子どもの“感覚過敏”や発達の特徴

  • 多くの研究で、「味」「におい」「食感」「温度」などの感覚に対する敏感さ(感覚過敏)が偏食の一因となっていることがわかっています【参照:感覚処理障害研究、OT/PT分野の報告】。
    • 例えば、「葉物野菜の苦味が極端に苦手」「ぬるぬる・べたべたした食感が嫌」「においに強く反応する」など、本人も“我慢できない強い不快感”を感じています。
  • 発達障害やADHD、知的障害、感覚統合の課題をもつ子では、偏食の頻度が高いという報告も複数あります【日本感覚統合学会・日本小児科学会等】。

●成長過程でよくある「好き嫌い」の正常発達

  • 乳幼児期(2〜6歳前後)は“新奇恐怖(Neophobia)”といって、「初めてのもの・見慣れないもの」を避ける傾向が強くなるのが自然な発達です。
  • ピアジェの発達段階論でも「感覚運動期〜前操作期」にかけて、食べ物への興味や好き嫌いが大きく揺れる時期とされています。

●心理的な要因・環境の影響

  • 家庭や園・学校での食事経験や雰囲気、親の「食べなさい!」という強い圧力が逆にストレスとなり、ますます食べられなくなるケースもあります。
  • 一度苦手だと感じた食材や料理に対して、「また嫌な思いをするかも」と無意識に身構えることも。

●「発達の個性」と「食事環境」が重なって偏食は起きやすい


■偏食に対する間違った“思い込み”に注意

  • 「好き嫌いは親のしつけのせい」
     → 科学的には多くが発達特性や感覚過敏、心理的要因の重なり家庭の努力だけでは変えられないことも多い。
  • 「無理にでも食べさせれば食べられるようになる」
     → むしろ“食への恐怖”やストレスが強くなり、食事そのものが嫌いになるリスクが高まる文献:小児臨床心理学・感覚統合療法ガイドライン等】。
  • 「一生このまま偏食が続くのでは…」
     → 成長とともに感覚が変わったり、環境が変化したりして食べられる物が増えることはよくあります。

■「少しずつ慣れる・安心できる」経験が偏食克服のカギ

●段階的曝露(Exposure)法の有効性

  • 苦手な食材を“見る・触る・匂う・近くに置く”といった段階から、少しずつ慣れていく「段階的曝露法」が有効という研究報告が増えています。
  • たとえば…
    1. まずは苦手な食材を「お皿に乗せるだけ」
    2. 次に「触ってみる」「匂いを嗅いでみる」
    3. 口元まで運ぶ→なめてみる→ほんの一口食べる
  • この時、「できた!」を必ず認めて自信に変えることが大事です。

●“楽しい食卓”とポジティブな雰囲気が食体験を広げる

  • アメリカ・オーストラリアなどの小児食育プログラムでは、「みんなで食べる」「盛り付けを一緒にする」「食べる場を楽しいものにする」ことが“偏食の改善”に有効というエビデンスがあります。
  • 「無理強い」より「チャレンジできた自信」「家族と過ごす楽しさ」の積み重ねが大切。

■親御さん・支援者ができる具体的な工夫

1. 「食べられるものを大切にしながら、少しずつ幅を広げる」

  • 毎回“全部食べさせる”のではなく、まずは“食べられる物”を中心に安心できる食卓を作る
  • 苦手なものは無理に食べさせず、「見る・触る・隣に置く」からスタート

2. “食べること以外”でも食材に慣れる

  • 一緒に買い物、料理、盛り付けなどを体験する
  • 「手で触る」「匂いを嗅ぐ」など、感覚刺激に少しずつ慣れる

3. 調理方法や盛り付けの工夫

  • 同じ食材でも、切り方・火の通し方・味付け・食感を変えると、受け入れやすくなることも多い
  • 例:野菜は細かく刻む/みそ汁やスープに入れる/ハンバーグやカレーに混ぜる/色や形をかわいくアレンジ

4. 「食事を強制しない」ポリシーを家族で共有

  • 「今日は見るだけでOK」「口に入れるだけで大成功」など、“できたこと”をしっかり認める
  • 食事の場で「叱る」「比較する」を避ける。
    食卓が「安心できる場所」だと感じてもらうことが第一歩

5. 食事以外の「感覚遊び」も活用

  • 粘土やスライム、砂遊び、水遊びなどで“手や口以外の感覚体験”を増やすと、食事の感覚にも良い影響が出る場合がある(感覚統合療法の知見)

6. 栄養バランスは“1日でなく1週間単位”で見る

  • 小児栄養学の研究では、「1日ごとに栄養が偏っても、1週間トータルでいろいろな食品をとれていれば大きな心配はない」とされています。
  • サプリメントや特別な食品に頼る前に、「食べられるもの」「少しでも食べられた新しいもの」を一緒に喜ぶ

7. 心配な場合は専門家に相談を

  • 「極端に食べられるものが少ない」「体重減少・成長停滞が見られる」「食事のたびに激しいストレスがある」などの場合は、小児科・栄養士・発達支援センターへの相談が安心

■理学療法士・専門職からのメッセージ

  • 偏食は「親の責任」でも「子どものわがまま」でもなく、多くは発達や感覚、環境が関係する“個性”の一つです
  • 子ども自身が「できた!」と思える経験と、家族が安心できる雰囲気づくりが何より大切。
  • “焦らず、少しずつ”が大きな成果につながります。

■まとめ

子どもの偏食は決してめずらしいことではありません。
むしろ、発達や感覚の個性として自然なことも多く、「今できていること」を一緒に喜び、「少しずつ広げていこう」というスタンスが一番です。

  • 感覚過敏や発達段階の特徴を理解し、子どものペースを大切に
  • 無理に食べさせるより、“楽しい食卓”や“新しい経験”を積み重ねる
  • 家族も「がんばりすぎない」「相談できる場所を持つ」

科学的な根拠と発達支援の知恵をもとに、
焦らず、一歩ずつ進んでいきましょう。
困ったときは一人で抱え込まず、専門家にも相談してみてください。

すこっぴーラボでは、お子さん一人ひとりの特性や動きの特徴を丁寧に見きわめ、その子に合ったサポート方法をわかりやすくご提案しています。
無料相談も受け付けていますので、ご興味のある方はお気軽にご連絡ください。

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