「自分の体が今どうなっているか」「どのくらい手足を伸ばせるか」「どこまでが自分の体なのか」
こうした“自分自身の体”についての感覚やイメージを「ボディイメージ」といいます。
運動や日常生活、そして心の健康にも深く関わるこのボディイメージ。
子どもの発達支援やリハビリの現場ではもちろん、日々の育ちや学びの中でもとても大切なテーマです。
この記事では、「ボディイメージとは何か」「どう育っていくのか」「その基礎にはどんな力が必要なのか」について、専門的な観点から解説します。
※今回の記事は、以前投稿した記事「ボディイメージが低い子の特徴と育て方〜体をうまく使えない理由〜」をより深くしたした記事になります。
■ボディイメージとはどんな能力?
●定義:自分の体を“感じて”“イメージできる”力
ボディイメージとは、
- 「自分の体がどこにあって」「どのくらいの大きさで」「今どんな姿勢・動きをしているか」
- 「体の各部分がどう動いているか」「自分と他人・物との距離感や位置関係」
などを無意識のうちに把握・イメージする能力です。
医学・リハビリテーションの分野では、
「身体図式(body schema)」と「身体イメージ(body image)」の2つの観点で語られることもあります。
- 身体図式(body schema)
脳が無意識のうちに体のパーツや位置、動きを統合・コントロールする仕組み(例:目をつむっても手を挙げたり、椅子に座ったりできる) - 身体イメージ(body image)
“自分の体”についての意識的なイメージ・自己認識(例:自分の身長や体型への自覚、体に対する好き嫌い)
子どもの発達においては、主に身体図式=「体の感覚」や「体を使いこなす力」が土台となり、その上に身体イメージ(自己意識)が積み重なっていきます。
■ボディイメージはどうやって育っていくのか
●乳幼児期からの“体験”がスタート地点
ボディイメージの発達は、生まれた直後から始まります。
- 赤ちゃんは、寝返り・はいはい・手足をバタバタさせるなど、体を自由に動かす中で「自分の体がどこまでか」「どう動かせるか」を体感します。
- 物を触る、持つ、なめるなど“五感”を通して「自分の体」と「外の世界」を区別しはじめます。
●発達の順序:体幹→四肢→手指
- まずは体幹(お腹・背中・胴体)が安定し、その後で手足や指先など、細かな部分の動きをコントロールできるようになります。
- これは、体の“中心”から“末端”へと発達が進む、発達学の基本的な原則(近位―遠位方向の発達)に沿っています。
●「動き」と「感覚」の統合が育ちのカギ
- 体を動かすとき、脳は“自分の動き”と“そのときの感覚(筋肉の伸び縮み・関節の動き・バランスの変化など)”を瞬時に統合します。
- さまざまな運動遊びや身体活動の経験を通じて、「これくらい腕を伸ばせばボールに届く」「ここで止まればぶつからない」など、体の使い方の精度が上がります。
●他者との関わり、模倣・イメージも影響
- 周囲の大人や友達の動きを見て“まねする”、鏡を見て自分の姿を確認する、絵を描くなどもボディイメージの発達に役立ちます。
- 遊びやスポーツ、ダンス、造形活動など、多様な体験が自分の体への理解を広げます。
■ボディイメージの“土台”になっているもの
1. 感覚統合
- 固有受容覚(固有覚)
筋肉や関節からの「自分の体が今どこにあるか」という情報
(例:目を閉じていても、手を上げたり足を動かしたりできる) - 前庭感覚
バランスや体の回転・傾きを感じるセンサー - 触覚
皮膚を通じて「触れている・ぶつかっている・痛い」などの情報をキャッチ
これらの感覚がバランスよく働き、脳でうまく“統合”されることで、ボディイメージの土台ができます。
2. 運動経験・身体活動
- 自由に遊ぶ・運動する・さまざまな環境で体を動かす経験が「自分の体を知る」力を育てます。
- 木登り、ジャンプ、逆上がり、ダンス、スポーツ、工作など、多様な体験が重要です。
3. 模倣・イメージ・社会的な経験
- 他者の動きをまねする
- 鏡で自分を見る
- 物語やアートで「自分と他者」「現実とイメージ」を行き来する
こうした経験が、単なる“動き”から「自分自身への認識」「体への自信や肯定感」へと発展していきます。
■ボディイメージの発達と発達支援
●ボディイメージが育つことでできるようになること
- ケガをしにくい体の動かし方が身につく
- スポーツや運動の上達、日常生活のスムーズな動作
- 空間認知力や道具の操作
- 自己肯定感や「自分らしさ」につながる
●発達がゆっくりな場合、どんなことが起こる?
- 体の大きさや位置感覚がつかみにくい(ぶつかる・転ぶことが多い)
- ボディラインを意識できず、運動やダンスが苦手に感じやすい
- 身体的な不器用さ、自己イメージの低下
●支援の基本は“からだ全体での経験”
- 多様な運動・感覚遊び(例:くぐる、転がる、ジャンプ、バランス遊び、造形活動など)
- できるだけ“実際に体を動かす”体験を重ねる
- 周囲の大人が「失敗や成功」を温かく受け止め、自己肯定感を育てる
■まとめ
ボディイメージは「自分の体を感じ、イメージし、使いこなす」ための基礎的な能力です。
その土台には、感覚統合や運動経験、社会的な関わり、自己肯定感など多様な要素があります。
赤ちゃんの時からの遊びや運動、日々の経験を通して、少しずつ自分の体を理解し、思い通りに動かせる力が育っていきます。
“上手・下手”ではなく、「自分の体が好き」「動かすのが楽しい」と思える経験を大切にしましょう。
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