「ボール投げがうまくできない」「キャッチボールが苦手で楽しめない」
そんな悩みは、小学校・中学校の先生や保護者の方からよく聞かれます。
体育や遊びの時間、「どうしてうちの子だけうまく投げられないんだろう」と心配する方も多いのではないでしょうか。
実は、ボール投げは単なる“腕の力”だけでなく、全身のバランス・感覚・動きの協調など、いくつもの「からだの要素」が関わる、とても複雑な運動です。
このページでは、なぜボール投げが苦手な子がいるのか、その背景と特徴、体の使い方、そして現場や家庭でできる支援アイディアまで、わかりやすく解説します。
■なぜボール投げが苦手な子がいるの?
●ボール投げは「全身の連動運動」
ボール投げは、
- 目で目標をとらえる
- 足を踏み出す
- 体をひねる
- 腕を大きく振る
- タイミングよく手を離す
…といったたくさんの動きが“連動”することで初めてうまくいきます。
●苦手の理由はいくつかあります
- 体のバランスや体幹が弱い
→ 体をひねったり、重心を移動させるのが難しい - 力加減がわからない(固有覚の課題)
→ 強すぎたり弱すぎたり、力をコントロールしづらい - タイミングやリズム感の苦手さ
→ 「投げる」動作と「足を出す」「手を離す」タイミングがずれる - 目と体の協調がうまくいかない(視覚認知・空間認知)
→ 的をよく見ていても、体の動きと一致しにくい - 運動経験や自信の不足
→ 苦手意識が先に立ち、「やってみよう」と思えなくなりがち
■ボール投げが苦手な子の特徴
- 腕だけで投げようとし、体全体を使えていない
- 足を前に出さず、その場で投げてしまう
- 体のひねりがなく、ボールが上手く飛ばない
- 投げるときに“肘が下がる”、または“手首だけ”で投げる
- ボールの方向や距離が安定しない
- 投げることに消極的、楽しそうでない様子
こうした特徴が見られる場合、「できない」ことを責めるのではなく、「どうしたら“できる”が増えるか」を考えることが大切です。
■ボール投げに必要な「体の使い方」とは?
●下半身(足・股関節)
- 投げる側の足を後ろに引いて、前に踏み出すことで「体重移動」ができます。
- 踏み出す力が弱いと、体の回転やパワーが伝わりにくくなります。
●体幹(お腹・背中・体側)
- 体幹をしっかりひねり、投げるときに回転させることで「全身のパワー」を腕に伝えます。
- 体幹の筋肉が弱いと、腕だけの動きになり、ボールが飛びにくい。
●上肢(肩・肘・手首・指)
- 肩をしっかり使い、大きく腕を振り上げる。
- 肘を伸ばす、手首をしっかり使って“リリース”する。
- 最後は指先まで「力とタイミング」を伝えることが大切です。
●感覚統合(目・体・空間)
- 目で「的」を捉え、空間の距離や方向を感じ取る
- 自分の体の動きや位置を把握(固有覚)
- 動いている自分やボールの速さ・方向を脳で調整(前庭覚・バランス感覚)
これらの感覚がうまく働くことで「思ったとおりに投げる」ことができるようになります。
■理学療法士が考える「苦手さ」の発達的な背景
●発達ピラミッドの“土台”を見直す
「手先の器用さ」や「スポーツの上手さ」などの“応用的なスキル”は、
その下にある「体幹の安定」「バランス感覚」「感覚統合」といった“土台”がしっかりしていてこそ育ちます。
●「できていない」=まだ土台を育てている途中
- 幼児期や小学校低学年は、まず「大きく体を動かす」経験が何より大事
- 体幹の安定・バランス・いろんな動きを経験することで、徐々にボール投げの力もついていきます
■家庭や学校でできる「ボール投げ」支援の工夫
1. いきなり難しいことを求めない
- 最初は「両手で投げる」など、簡単なところからスタート
- 足を出す・腕を振る・体をひねる…など、パーツごとに練習
2. 大きく、軽いボールを使う
- ソフトなボールやビーチボールなど、当たっても痛くなく、握りやすいものがおすすめ
- ボールが大きいとコントロールしやすく、投げる成功体験が増えます
3. 的当てやキャッチボール遊びで「楽しい!」を増やす
- 大きな的やカラーコーンを使った的当て
- 壁当てや床バウンドなど、失敗しても楽しめる遊び
- 保護者や先生が“お手本”を見せながら一緒にやる
4. バランスや体幹を育てる遊びも取り入れる
- 平均台の上を歩く、片足立ち、ジャンプ遊び
- 公園の遊具やぶら下がりも、体幹・バランス感覚の発達に役立ちます
5. 「できた!」をたくさん認める・褒める
- 遠くに投げられた、狙った方向に投げられた、タイミングよく投げられた…
どんな小さな一歩も必ず認め、「がんばったね!」と伝えましょう。
6. 「恥ずかしい」「失敗がこわい」気持ちにも寄り添う
- みんなの前でうまくいかなくても責めず、個別で練習する時間も用意する
- 「一緒にやってみよう」「もう一回挑戦しよう」と声をかけて安心感をつくる
■まとめ・現場や家庭での支援策
ボール投げが苦手な子どもには、必ず“理由”があります。
その子自身の「体の使い方」や「発達段階」、「感覚の統合」に合わせて、焦らずじっくりと「できる」を増やしていくことが大切です。
★実践的な支援策まとめ
- 全身運動やバランス遊びもボール投げの上達につながる
- 投げ方をパーツごとに分けて練習する
- 大きくて軽いボール、成功体験が増える的当て遊びを活用
- 保護者や先生の“見守り”と“励まし”が自信になる
- 運動が苦手な子にも“楽しさ”を感じてもらう工夫を
もし、どうしても苦手意識が強くて困っている場合は、理学療法士や専門家に相談するのも良い選択です。
その子の発達段階や体の特徴に合わせて、より細かなアドバイスやサポートが受けられます。
「できた!」が増えれば、苦手だったボール投げもきっと楽しくなります。
ひとりひとりのペースと“成功体験”を大切に、子どもたちの成長を一緒に応援していきましょう。
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