「ほかの子より歩き始めるのが遅い…」「座って遊ぶのが苦手で、すぐ動き出してしまう」「集団遊びにうまく入れない」
どうしても他の子と比べてしまい、不安になることが多いものです。
特に最近は、育児情報が溢れている分、迷いや心配がつきものです。
しかし
実は、発達の土台づくりにいちばん大切なのは「遊び」なのです。
本記事では、乳幼児期の遊びがどのように発達とつながっているのか、またどんな動きや環境を意識すればよいかを理学療法士の視点から詳しく解説します。
■乳幼児期の「遊び」とは何か?
大人にとっては「ただ遊んでいるだけ」のように見える子どもの動きも、実は発達に欠かせない“学び”の連続です。
●あそび=脳と身体の発達のエンジン
乳幼児期の子どもは、「自分の興味・関心」に従って、全身を使い、繰り返しさまざまな動きを試します。
- うつ伏せから寝返り、ハイハイへ
- つかまり立ち、伝い歩き、よちよち歩き
- 手を伸ばす、つまむ、なげる
- くぐる、登る、揺れる
これらは、子どもが「自分の体を知る」「周りの世界を体感する」ための貴重な体験です。
●「できること」を増やすより、「やりたいこと」を引き出す
大人が「●●できるように練習しよう」と促すより、
子ども自身が「やってみたい!」と思う環境や道具を用意することが、実は一番の発達支援です。
■理学療法の視点:「動き」が育てる“発達の土台”
理学療法の世界では、「動き(運動)」と「感覚」の発達が、心身の土台づくりに不可欠であることがわかっています。
●運動発達の流れと“動きの多様性”
運動発達は、「首がすわる→寝返り→お座り→はいはい→つかまり立ち→歩行」と、
大まかな順序をたどって進んでいきます。しかし、一人ひとりペースや興味は異なります。
大切なのは、さまざまな動きの「試行錯誤」です。失敗と成功を繰り返す中で、
- バランスの取り方
- 手足を協調させる方法
- 体重移動の感覚
- 筋肉の力の入れ方
など、多くの「からだの使い方」が身についていきます。
●“感覚”の発達=脳と身体のコミュニケーション
子どもは動きながら、
- 自分の体がどう動くか(固有感覚)
- 体がどちらに傾いているか(前庭覚)
- 手足の触れたものがどんな感触か(触覚)
といった情報を脳で処理し、体にフィードバックを返しています。
この「感覚のキャッチボール」が、心身の発達にとても重要です。
■「遊び」で育つ力はこんなにたくさん
1. 姿勢保持・バランス能力
歩く・立つだけでなく、座って集中して遊ぶにもバランス能力は欠かせません。
「すぐイスから立ち上がる」「座る姿勢が崩れる」場合も、バランスの土台が影響していることがあります。
2. 筋力と体幹の安定
ハイハイやよじ登り、ジャンプなどの全身運動は、自然と筋力や体幹の安定性を高めてくれます。
「ふにゃふにゃ座り」や「体がだらんとしやすい」子には、こうした運動遊びが特に大切です。
3. 手指の巧緻性・空間認知
ブロック遊び、積み木、粘土遊びなどは、手先の器用さだけでなく「空間を認識する力」も養います。
4. 社会性・コミュニケーション
ごっこ遊びやルールのある遊びは、他者と関わる力、ルールを守る力、気持ちを言葉で表現する力も育てます。
■「家庭」でできる発達支援のポイント
●特別なことは不要!「環境」と「見守り」で十分
乳幼児期の発達支援というと「何か特別な運動が必要?」と考えがちですが、
実は“環境の工夫”と“見守る姿勢”がもっとも大事です。
●【家庭でできる環境づくりの例】
- 安全で自由に動けるスペースを確保する
…床にマットを敷く、危ないものは片付ける - 高低差のある遊びを取り入れる
…クッションや段ボールで「山」を作る - 登る・くぐる・引っ張るなど全身を使う機会を作る
…椅子の間に布をかけて「トンネル」や「テント」 - 手でつまむ・握る・ちぎる遊びも用意する
…新聞紙をちぎる、ブロックを積む - “楽しい”を優先し、無理にやらせない
…大人の声かけは「危ない!」の時だけ、あとは自由に
●“失敗”も貴重な経験
転ぶ、うまくできない、壊してしまう……
こうした経験もすべて「学び」です。失敗を責めず、「どうしたらできるかな?」と一緒に考える姿勢が子どもの自己肯定感や意欲を高めます。
■園や学校での「発達支援」とは?
学校や園でも、発達支援=特別なトレーニングが必要と思われがちですが、
日常の遊びや活動を通して“さまざまな動き”を経験できる環境づくりが最優先です。
●「待つ」「見守る」大人のかかわり
大人が「こうしてみて」と手を出すより、子どもが自分で考えて試せる“余白”を用意することが、実は最大の支援です。
●集団遊びで得られるもの
- 順番を待つ
- 友達と協力する
- ルールを理解する
- 失敗や衝突を経験する
これらは、将来の学校生活や社会生活の基盤になります。
●理学療法士が園や学校に提案できること
理学療法士は、子どもの「動き」や「姿勢」「バランス」などを専門的に評価し、
どんな環境や運動が適切かをアドバイスできます。困りごとがある場合は、早めに専門家に相談するのも選択肢の一つです。
■「あそび」は子どもの生きる力を育てる
遊びは決して“ムダな時間”ではありません。
動きの経験は、すべて将来の学習や人間関係、自己肯定感につながる「生きる力」の基盤です。
●親や大人にできること
- 子どもが自分で考え、体験できる場を用意する
- たくさん動いても「ダメ」と言わず、見守る
- 比較や焦りより、子どもの“今の姿”を認める
●困った時は専門家に相談を
もし発達や運動面で心配なことがあれば、一人で悩まず専門家に相談してみてください。
理学療法士は“発達の土台づくり”の視点から、一人ひとりの子どもにあったアドバイスが可能です。
■まとめ
乳幼児期の発達にとって最も大切なのは、「遊び」の中で体験を重ねること。
特別な運動やトレーニングよりも、“安全で自由に動ける環境”と“大人の見守り”こそが、
子どもたちの心と体の“発達の土台”を作ります。
比べず、焦らず、子どもの「やりたい!」を大切にする毎日が、
将来のしなやかな「生きる力」につながっていきます。
コメント