子どもの「ボディイメージ」を育てるために〜運動発達支援の視点から〜

姿勢

「なんでこんなに不器用なんだろう…?」「何度やっても体操がうまくできない」「椅子に座るとグニャっと姿勢が崩れる」「体の動かし方が他の子となんだか違う」――

こうした場面に日々、保護者や支援者の皆さんが「何か違和感」を感じたことはありませんか?

その背景には、実は 「ボディイメージ(身体イメージ)」の発達 がうまく進んでいない可能性があります。
今回は、理学療法士の視点から「子どものボディイメージとは何か」「発達が未熟な子どもに見られる特徴」「そして家庭・学校でできる具体的な支援方法」について、最新の研究も交えてわかりやすく整理します。


1. 「ボディイメージ」とは何か?

1-1 定義と仕組み

「ボディイメージ」とは、自分の体がどのような形・大きさ・位置にあるかを、頭の中で把握し、さらにどう動かせばいいかを感覚的に理解している能力のことです。
別の言い方をすると、「自分の体の地図を脳が持っている」というイメージです
例えば…

  • 棚に置いてあるおもちゃを取るとき、「腕をどれくらい伸ばせば届くか」を無意識に感じて動かす
  • 狭い通路を通るとき、自分の肩幅や胴体の幅を把握して自然に体を縮める
  • 椅子に座るとき、自分の背中・お尻・足の位置を感じ、「背筋を伸ばす」や「重心を保つ」といった感覚を働かせる

こうした動作を支えるのが、ボディイメージの力です。
この力が弱いと、「体をうまく動かせない」「姿勢が崩れやすい」「体の動きが他の子と違うように見える」といった状況が起こりやすくなります。

1-2 なぜ運動発達支援(理学療法)の視点で重要か

理学療法士や作業療法士が子どもの運動発達や姿勢・体の使い方を支援する際、ボディイメージは非常に土台となる要素です。

運動や遊びの中で「体をどう感じて・どう動かすか」を繰り返すことで、脳には自分の体の地図(身体図式)が作られていきます。
これが未熟だと、運動の苦手さや姿勢の課題として表れるため、早期に支援することで子どもの学びや遊び・日々の生活がスムーズになります。


2. ボディイメージが低い(うまく育っていない)子どもに見られる特徴

以下に、家庭や学校で見られやすいサインを整理します。
支援者・保護者として「もしかして?」と感じる場面があれば、ボディイメージの観点から見直すヒントになります

特徴① よくぶつかる・転ぶ

体の幅・手足の位置・動く範囲を正確に把握できないと、狭い場所で壁や物にぶつかったり、椅子や机の脚に引っかかったり、転びやすくなります。

特徴② 姿勢が崩れやすい

椅子に座っていると、背もたれにダラっともたれかかったり、左右どちらかに体が傾いたり。これは「今、自分の体がどうなっているか」を感じる力=ボディイメージが十分でないことが影響しています。

特徴③ 運動・ダンス・体操が苦手

手足のタイミングが合わなかったり、動きの順番が把握しにくかったり。体の各パーツを「どう使えばいいか」が感覚として整理されていないため、運動が「楽しくない」「なんだか違う」と感じる子も見られます。

特徴④ 細かい動作・文字や図形が歪む・書きにくい

鉛筆を持つ・文字を書く・図形を描くといった細かい手の動きが不安定。「筆圧が一定でない」「文字の大きさ・バランスが揃わない」なども、手足・指の位置・動きを感覚的に捉えるボディイメージが弱いことに起因する可能性があります。


3. なぜボディイメージが育ちにくいのか? 〜背景と科学的根拠〜

ここでは、なぜ近年子どもたちにボディイメージの未熟さが見られるのか、その背景と科学的知見を紹介します。

3-1 発達プロセスとしての体験の重要性

子どもは、生まれてから次のような動きを通じて「自分の体を感じる経験」を積み重ね、脳の中に身体図式を作っていきます¹⁾²⁾³⁾

  • 寝返り・ハイハイ:床を感じて、自分の体の位置を認識
  • 登る・ぶら下がる・滑るなど全身を使った遊び:重力・体の傾き・動きの感覚を経験
  • 転んだり、ぶつかったり:自分の体の限界・位置・動きの結果を知る

このような体験がないと、身体図式(=ボディイメージ)の発達がスムーズに進みません。

3-2 現代の子どもを取り巻く環境要因

近年、以下のような要因で「体を使って感じる経験」が減少してきています。

  • 外遊びや身体を動かす時間・空間の減少
  • 安全・衛生・事故防止の意識から、子どもが自由に体を使える機会が少ない
  • 長時間の座り・スマホ・ゲームなど、静的な活動の増加
  • 体を支える「体幹筋」(姿勢を支える筋力)などが十分に育っていない子の増加
  • 感覚過敏・感覚鈍麻(体の感覚を感じにくい/過敏すぎる)など、感覚発達の課題を持つ子どもも増えている

4. 理学療法士がすすめる「ボディイメージを育てる」具体的アプローチ

では、家庭や学校で実践できる支援方法を、理学療法の視点から整理します。ボディイメージを育てるためには、「感じる」「動く」「考える」の3ステップが鍵です。

4-1 「自分の体を感じる遊び」を日常に取り入れる

体を使って「感覚を刺激」し、「自分の体を感じる」経験を増やしましょう。
具体的には:

  • タオル綱引き:体全体の力の入れ方・相手と引っ張り合う接触感覚を養う
  • ごろごろ転がる遊び:床・寝返り・体の傾き・重さを感じる
  • クッションで“挟み遊び”:体の輪郭・左右・前後を感じる
  • ブランコ・平均台・バランス遊び:重力・体の揺れ・バランスを感覚的に学ぶ

💡 声かけの工夫も大切です。
「今、どこが床についてる?」「腕をどれくらい伸ばせば届くかな?」と、動き → 感覚 → 言葉を結びつけてあげると、脳内で体の地図が整理されやすくなります。

4-2 鏡を使って「自分の姿勢・動き」を見せる

自分の姿勢や動きを“目で確認”することは、視覚フィードバックとして非常に有効です。

  • 鏡の前で「バンザイ」「ジャンプ」など左右対称の動きをしてみる
  • 「背中が丸まってる?」/「肩の高さはどう?」と一緒にチェックする
  • 動きを撮影して「このとき、体がどうなっていたかな?」と振り返る

こうした習慣により、「動く前/動いたあと」に自分の体の位置・姿勢・動きを意識できるようになり、ボディイメージの成長を促します。

4-3 「どこが動いた?」「どこを使った?」を聞く習慣

運動や移動をしたあとに、子どもに 体に意識を向ける問いかけ をすることも大切です。例えば:

  • 「今、どこが疲れたかな?」「どこを動かしたかな?」
  • 「手はどれくらい伸ばした?足はどのくらい動いた?」
  • 「体がどう傾いたかな?傾いたほうを感じてみよう」

このように「動きを経験 → 感じる → 言葉にする」という流れを習慣化すると、動作が“ただやる”ものではなく“意味を感じ取る”ものになり、脳の中にボディイメージの地図が定着しやすくなります。

4-4 学校・園での姿勢サポート/環境支援

ボディイメージの支援は動きだけでなく、環境を整えることも重要です。

  • 椅子の高さが合っているか、足が床にしっかりついているかを確認
  • 背中~腰の間にクッションを入れて“座りやすさ”をサポート
  • 長時間の座位を避けて、適宜「体を動かす時間」を入れる
  • 教室や家庭で「姿勢チェックタイム(1分)」を取り入れる

「姿勢が悪い!」とただ注意するのではなく、「どうしたら座りやすくなるか?」「この椅子・机で足がブラブラしないかな?」と一緒に考える関わりが、子どもの自己調整力を育てます。


5. 保護者・支援者へのメッセージ

子どもが「できない」「苦手そう」と感じるとき、つい「練習しなさい」「姿勢を正して!」と声をかけたくなりますが、その前にぜひ次のことを思い出してください。
「できない」には必ず理由があるのです。性格ややる気の問題ではなく、感覚・脳・体の使い方という「見えにくいけど重要な土台」のことが関わっています。

保護者・支援者として大切なのは、

  • 子どもの体の使い方に気づくこと
  • 「どう感じているか」「どこが動きにくいか」を問いかけること
  • 動き・感覚・言葉をリンクさせる関わりを持つこと

こうした視点を日常に少し取り入れるだけで、子どもたちは「自分の体を感じられる」「自分の体を動かせる」といった自信を少しずつ取り戻し、学びや遊びの中に積極的に参加できるようになります。


6. まとめ ~感じて・動いて・考えることで育つボディイメージ~

  • ボディイメージ(身体イメージ)は、自分の体がどうなっていて、どう動かせばいいかを頭の中で感じ取れる力です。
  • この力が未熟な子どもには、「よくぶつかる」「姿勢が崩れやすい」「運動が苦手」「手先の動きがぎこちない」といった特徴が見られます。
  • 現代の子どもたちは、体を自由に動かす体験が少なくなっており、ボディイメージの育ちにくい環境にあることが研究でも示されています。
  • 理学療法士の視点からは、家庭・学校で次のような支援が効果的です:
    1. 体を感じる遊びを日常に取り入れる
    2. 鏡や視覚フィードバックを活用して自分の姿勢や動きを見る
    3. 「どこが動いた?どこを使った?」と問いかけて言葉にする習慣を持つ
    4. 環境(椅子・机・遊びの場)を整えて、姿勢・動きの支援をする
  • 大切なのは「感じて・動いて・考える」プロセス。特別な教材や大がかりなトレーニングではなく、日常のちょっとした工夫から始めることができます。

今日から、お子さんの「体の地図づくり」を一緒に始めてみませんか?
一歩ずつ積み重ねることで、子ども自身が「自分の体がわかる」「自分の体が使える」と感じられるようになります。


最後になりますが、当サイト「すこっぴーラボでは、理学療法士の視点をもとに、子どもの発達や成長に関する情報を発信しています。
無料相談も受け付けておりますので、「うちの子、ちょっと気になる」「どう関わっていいかわからない」という方は、お気軽にご連絡ください。

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