「うちの子、落ち着きがないのは個性?それとも…」
「クラスに気になる子がいるけれど、どう関わればいいかわからない」
近年、学校や園、家庭の中で「発達障害」という言葉を耳にする機会が増えました。
でも、こんな疑問をお持ちではありませんか?
- 具体的にどんな状態を指すのか
- どれくらいの子どもがいるのか
- なぜ最近よく聞くようになったのか
こうした基本的なことまで、くわしく知っている方はまだ多くないのが現状です。
この記事では、理学療法士(からだの発達と動きの専門家)の視点から、ADHD・ASD・ID(知的発達症)などの発達障害について、親御さん・支援者の方にわかりやすく解説します。
「動き」「姿勢」「感覚」という、医師や心理職とは少し違う角度からの情報もお届けします。
お子さんや児童・生徒さんへの理解を深めるヒントにしてください。
この記事でわかること
- 発達障害は「脳の特性」であり、しつけや努力不足ではない
- 通常学級の小中学生の約8.8%に支援が必要な可能性がある(文科省 令和4年調査)
- ADHDとASDは約30〜50%が合併するなど、複数の特性が重なることが多い
- 多くの子どもに、運動の不器用さ(DCD)や感覚の困りごとが隠れている
- 「困った子」ではなく「困っている子」として関わることが、最大の支援になる
1. そもそも発達障害とは?
発達障害とは、生まれつきの脳の働き方の違いによって、行動・学習・対人関係などに特徴が現れる状態のことです。
大切なポイントを3つお伝えします。
- 病気ではなく、脳の特性
- しつけや育て方が原因ではない
- 本人の努力不足でも、わがままでもない
最新の医学的な分類(DSM-5-TR)では、これらをまとめて「神経発達症群(Neurodevelopmental Disorders)」と呼びます。
代表的な種類は次の通りです。
| 略称 | 正式名称 | 特徴の中核 |
|---|---|---|
| ADHD | 注意欠如・多動症 | 不注意、多動性、衝動性 |
| ASD | 自閉スペクトラム症 | コミュニケーションの困難、強いこだわり、感覚の偏り |
| ID(IDD) | 知的発達症(知的障害) | 知的能力と適応行動の発達の遅れ |
| SLD(LD) | 限局性学習症(学習障害) | 読み・書き・計算など特定領域の困難 |
| DCD | 発達性協調運動症 | 運動の不器用さ、協調動作の困難 |
💡 理学療法士からひとこと
DCD(発達性協調運動症)は、他の発達障害と非常に合併しやすく、有病率は5〜8%とADHDやASDよりも高いと言われています。
「運動が苦手」「不器用」も、れっきとした発達特性なのです。
2. それぞれの特徴をくわしく
🟦 ADHD(注意欠如・多動症)
ADHDの中核症状は、不注意・多動性・衝動性の3つです。
- 集中が続かない、忘れ物が多い
- じっとしていられない、しゃべりすぎる
- 順番が待てない、考える前に行動してしまう
学齢期では「落ち着きがない」「ケアレスミスが多い」と気づかれることが多いです。
成長とともに多動は目立たなくなる一方、不注意は大人まで続くこともあります。
🟩 ASD(自閉スペクトラム症)
ASDの中核症状は、社会的コミュニケーションの困難・限定された興味・反復行動・感覚の偏りです。
- 表情や空気を読むのが苦手
- 特定のことに強いこだわりがある
- 予定の変更が苦手
- 音・光・触感に過敏、または鈍麻がある
かつての「自閉症」「アスペルガー症候群」「広汎性発達障害」は、現在はすべてASDという連続体(スペクトラム)の中に含まれます。
🟨 ID(知的発達症/知的障害)
IDの中核症状は、知的機能と適応行動の発達がゆっくりなことです。
- 学習や理解にサポートが必要
- 生活スキルの獲得に時間がかかる
- コミュニケーションがゆっくり育つ
「重度」から「軽度」まで幅があり、特に軽度の場合は見逃されやすい特徴があります。
🟧 SLD(限局性学習症)
知的発達には遅れがないのに、読む・書く・計算するといった特定の分野だけが極端に苦手な状態です。
🟥 DCD(発達性協調運動症)
- ボタンが留められない、靴ひもが結べない
- 字がうまく書けない、なわとびが跳べない
- 体育がとにかく苦手
理学療法士・作業療法士の支援対象として最も身近な発達特性のひとつです。
「ただの不器用」と片付けられてしまいがちですが、れっきとした発達特性です。
3. 日本ではどれくらいいるの?増えているの?
📊 通常学級における発達障害の可能性のある児童生徒
文部科学省が2022年(令和4年)に実施した調査では、通常学級に在籍する小中学生のうち約8.8%に、学習面または行動面で著しい困難があると報告されました。
2012年の前回調査(6.5%)から2.3ポイント増加しており、35人学級なら1クラスに3人ほどの割合になります。
| 調査年 | 割合 |
|---|---|
| 2002年(平成14年) | 6.3% |
| 2012年(平成24年) | 6.5% |
| 2022年(令和4年) | 8.8%(小中学生)/2.2%(高校生) |
※ この数値は学級担任の回答に基づくもので、医師の診断によるものではありません。
📈 なぜ「増えている」のか?
数字だけ見ると急増しているように見えますが、専門家は次のような背景があると分析しています。
- 発達障害への認知が広がった(保護者や教員が気づきやすくなった)
- 診断基準が変わった(DSM-5でASDに統合され、対象範囲が広がった)
- 早期発見・早期支援の体制が整ってきた
- 大人になってからの診断が増えた
つまり、「発達障害の子が増えた」というより、「これまで見過ごされてきた特性が、正しく理解されるようになってきた」という側面が大きいのです。
4. 合併のしやすさ ― 複数の特性が「重なる」のが普通
発達障害はきれいに1つだけ当てはまることのほうが珍しいくらい、複数の特性が重なります。
主な合併率(研究報告より)
| 組み合わせ | 合併率の目安 |
|---|---|
| ASD × ADHD | 約30〜80%(研究により幅あり) |
| ASD × LD | 約26% |
| ADHD × LD | 約30〜40% |
| ASD × DCD | 約89%(Green et al., 2009) |
| ADHD × DCD | 約55%(Watemberg et al.) |
| DCD × LD | 約17.8〜27.5% |
特に注目すべきは、ASDやADHDのある子の半数以上に、運動の不器用さ(DCD)が併存していることです。
💡 理学療法士の視点
「コミュニケーションが苦手」「集中できない」といった目立つ特性に対応していると、運動面の困難はつい後回しになりがちです。
しかし、運動の不器用さは自己肯定感の低下や二次障害(うつ・不安)と直結します。
からだの発達という土台を整えることは、すべての支援の基盤になります。
5. 理学療法士の視点 ― 動き・姿勢・感覚に注目してみよう
医師や心理士さんがよく見るのは「行動」「言葉」「認知」ですが、私たち理学療法士は「動き」「姿勢」「感覚の使い方」を通して、その子のからだの土台を見ています。
🚶 動き・姿勢に現れるサイン
- 椅子に座っていてもグニャグニャ崩れる
- 片足立ちが苦手、すぐにふらつく
- 走り方や階段の昇り降りがぎこちない
- 鉛筆を握る力が強すぎる/弱すぎる
- 縄跳び・ボール遊び・自転車がなかなか習得できない
これらは「やる気がない」「ふざけている」のではなく、姿勢を保つ筋肉の使い方や、体の各部位の協調がうまく育っていないサインかもしれません。
🤲 感覚統合の視点 ― 5感の奥にある「2つの感覚」
私たちのからだには、視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚の5感のほかに、無意識に働く重要な2つの感覚があります。
- 前庭感覚:揺れ・回転・スピード・バランスを感じる感覚(耳の奥の三半規管)
- 固有受容感覚:自分の手足がどこにあり、どれくらい力を入れているかを感じる感覚(筋肉・関節)
これらの感覚の処理がうまくいかないと、こんなことが起こります。
| 感覚の特性 | 行動として現れること |
|---|---|
| 前庭感覚が過敏 | ブランコや高い所が怖い、車酔いしやすい |
| 前庭感覚が低反応 | グルグル回ってもめまいがしない、よく動き回る |
| 固有受容感覚が鈍い | 力加減が下手、物をよく落とす、姿勢が崩れる |
| 触覚が過敏 | 服のタグ・特定の素材が苦手、髪を洗うのを嫌がる |
| 触覚が鈍麻 | ケガをしても気づかない、抱きつき方が強すぎる |
「落ち着きがない」と見える行動の背景には、感覚を求めている/感覚に圧倒されているというからだの事情が隠れていることがよくあります。
6. 家庭・学校で今日からできる関わり方
「専門的なことはわかったけれど、明日からどうしたらいい?」という方のために、家庭や学校ですぐに実践できることをまとめます。
👨👩👧 家庭で意識したい3つのこと
① 「できない」より「どうしたらできるか」を一緒に考える
たとえば靴下が履けないなら、座る姿勢を変えたり、つま先から通しやすい靴下にしたり。
環境を変えるだけでできることが増えることはたくさんあります。
② からだを大きく動かす遊びを生活に組み込む
- 公園のブランコ・滑り台・ジャングルジム
- 布団の上でゴロゴロ転がる
- 手押し車(足首を持って手で歩く)
- トランポリン
これらは「ただの遊び」に見えて、前庭感覚・固有受容感覚を整える絶好の機会です。
③ 寝る前のスキンシップで「自分のからだ」を感じる時間を作る
ぎゅっと抱きしめる、背中を強めにマッサージするなど、深い圧をかける刺激(ディープタッチ)は、感覚の整理と安心感をもたらします。
🏫 学校・園で工夫できること
- 座席の位置:刺激の少ない場所、視覚的に集中しやすい位置に
- 姿勢を保つ工夫:足が床にしっかり着く椅子の高さ、滑り止めシートの活用
- 指示の出し方:1度に1つ、視覚的に(絵や文字で)伝える
- 「待つ」場面の構造化:あとどれくらいで終わるかを見える化する
- 休み時間にしっかり動く:抑えるより、適切に発散させる
❌ 避けたい関わり方
- 「やる気の問題」と決めつける
- 他の子と比べる
- 失敗を責める/長時間説教する
- 動いてはいけない場面で「動くな」とだけ伝える(代わりにどうするかを示す)
7. 困ったときの相談先
「気になる」と感じたら、一人で抱え込まず、専門家に相談することをおすすめします。
- 市区町村の子育て支援センター・保健センター
- 児童発達支援センター・放課後等デイサービス
- 小児神経科・児童精神科のあるクリニック
- 発達障害者支援センター(各都道府県に設置)
- 学校のスクールカウンセラー・特別支援教育コーディネーター
理学療法士・作業療法士による評価や支援を受けられる場所もあります。
お住まいの自治体に問い合わせてみてください。
8. すこっぴーラボ・オンラインのご紹介
すこっぴーラボでは、
- 理学療法士(運動・姿勢・感覚統合の専門家)
- 教員免許保有者(学習面・学校生活の専門家)
- 公認心理師(心理・行動面の専門家)
の3職種がチームを組み、オンラインで発達支援を行う新しい形のサービスを実施しています。
こんな方のために多角的な視点でお子さんの育ちをサポートします。
- 「病院に行くほどではないけれど、誰かに相談したい」
- 「専門家の視点で、わが子の特性を知りたい」
- 「学校との連携の仕方を一緒に考えてほしい」
まとめ
- 発達障害は生まれつきの脳の特性であり、しつけや努力不足ではない
- 日本の小中学生の約8.8%に支援が必要な可能性がある(令和4年調査)
- ADHD・ASD・LD・DCDは互いに合併しやすい ― 特に運動の不器用さ(DCD)は見落とされがち
- 理学療法士は動き・姿勢・感覚という土台から、その子の育ちを支える
- 「困った子」ではなく「困っている子」として関わることが、最大の支援
発達特性のあるお子さんは、決して「問題のある子」ではありません。
世界の見え方・感じ方が、少し違うだけです。
その違いを理解し、その子に合った関わり方を見つけることで、子どもたちは驚くほどイキイキと育っていきます。
この記事が、お子さんや児童・生徒さんとの関わりのヒントになれば嬉しいです。
📚 主な参考資料
- 文部科学省『通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果』(令和4年)
- 内閣府『令和5年版障害者白書』
- 厚生労働省『平成28年 生活のしづらさなどに関する調査』
- 一般社団法人 小児心身医学会『発達性協調運動症』
- 日本理学療法士協会 リガクラボ
- 藪中良彦ほか『小児理学療法学 第1版』メジカルビュー社
執筆:利根川 雄大(理学療法士/すこっぴーラボ代表)