「うちの子、運動神経が悪いみたいで…」「体育が苦手でいつも消極的」「スポーツが嫌い、やりたがらない」
そんな悩みを持つ保護者や教育現場の方は少なくありません。「運動が苦手=運動神経が悪い」と思い込まれがちですが、実は“運動神経”には科学的に明らかな育ち方や、サポートによって大きく変わるポイントがあります。
この記事では、「運動神経とは何か」「なぜ運動が苦手な子がいるのか」そして「運動神経は鍛えられるのか?」を、理学療法士の視点から解説し、子どもたちが“運動に前向きになれる”支援方法を提案します。
■そもそも「運動神経」とは何なのか?
「運動神経が良い・悪い」という言葉はよく使われますが、これは医学的な用語ではありません。
一般的には「体を動かすのが上手い」「スポーツが得意」という意味で使われています。
●運動神経= “動きを生み出す神経回路”のこと
正確には、「運動神経」とは脳・脊髄から筋肉までをつなぐ神経のネットワークのこと。
私たちが体を動かすときは、
- 脳で動きを計画(例:ジャンプしよう!)
- 神経回路を通じて命令が筋肉に届く
- 実際に筋肉が収縮し、動きが生まれる
という複雑な仕組みが働いています。
これに加え、「今どのくらい体が傾いているか?」「足はどこにあるか?」などの感覚情報(感覚統合)も重要で、「脳→神経→筋肉→感覚のフィードバック」というループが運動の基本です。
●「運動神経の良し悪し」は生まれつきだけでは決まらない
遺伝的な影響や個人差はありますが、運動神経は経験や学びによって発達する可塑的なものです。
幼少期の運動経験や、さまざまな感覚刺激が神経ネットワークを強化し、結果として「運動が得意な子・苦手な子」の違いが現れます。
■なぜ運動神経が悪い子がいるのか?——背景をひもとく
1. 「運動経験の差」
幼少期の遊びや運動の機会が少なかったり、「転ぶ」「うまくできない」経験で苦手意識が生まれると、運動神経の発達にブレーキがかかることがあります。
2. 「感覚統合の課題」
体の位置や動きを感じる「前庭覚」「固有覚」、バランスを取る「体幹筋力」が未熟だと、思うように体が動かせず、“運動が苦手”につながります。
3. 「協調運動・リズム感」の未発達
「右手と左足を同時に動かす」「タイミングを合わせる」といった複雑な協調運動は、発達段階や練習経験で大きく差が出ます。
4. 「自己効力感の低さ」
「できなかった」「恥ずかしい」「叱られた」といった経験が積み重なると、「どうせ自分はできない」と思い込む(自己効力感の低下)ことが、さらに運動嫌いにつながります。
■「運動神経は鍛えられる」——科学的な根拠
●神経の“可塑性”とは?
脳や神経系は年齢に応じて「神経回路の結びつき」を強めたり、新しく作ったりする「可塑性(plasticity)」という特徴があります。
この可塑性は幼児期〜学童期に特に高く、さまざまな運動経験を積むことで、神経回路が強化され「運動神経が良くなる」ことがわかっています【参考:発育発達学、運動学習の神経科学】。
●単一の動作より“多様な経験”が重要
1つのスポーツに特化するより、「走る・登る・跳ぶ・転がる」などいろいろな動きを経験することで、
運動神経のネットワークはより豊かに発達します(多様性仮説)。
●失敗も“運動神経”の栄養になる
失敗を恐れずにいろいろな動きを試すこと自体が、神経回路を活性化させ、
「どう動けばうまくいくか?」という試行錯誤が“動きの巧みさ”につながります。
■運動嫌いの子どもを支える支援方法——理学療法士の視点
1. 「できる・できない」より「やってみたい」を大切に
子どもは「楽しそう」「面白そう」と思えれば自然と体を動かします。
まずは興味のある活動や“できそうなこと”から一緒に始めることが支援の第一歩です。
2. 「成功体験」を積み重ねる
・最初から難しいことを求めず、小さな“できた”を大切に
・「前より上手になったね」「できるようになったね」と努力や工夫を認める声かけを
この成功体験が自己効力感を高め、次のチャレンジ意欲につながります。
3. 多様な動き・遊びの経験を提供する
- 公園の遊具で登る、ぶら下がる
- ボールを転がす、投げる、蹴る
- リズムに合わせて歩く、スキップする
- 片足立ち、ケンケンパ、ジャンプ、マット運動
「できること」だけでなく、 “やったことがない動き”をどんどん試す機会を作ることが、運動神経の発達を後押しします。
4. 感覚統合・バランスの土台作り
運動が苦手な子の多くは、バランス感覚や体幹の安定性が弱い場合が多いです。
- ブランコ、平均台、トランポリンなどバランス遊び
- 四つ這い、転がる、くぐるといった全身運動
- 身体の中心(体幹)を意識した動き
これらを“遊び”の中で取り入れることで、「からだの土台」をしっかり育てることができます。
5. 失敗を責めない環境づくり
・「失敗しても大丈夫」「やってみたことが偉い」と伝える
・友達や家族と協力して楽しむことで、運動へのハードルが下がる
恥ずかしさやプレッシャーを減らし、「やってみたい」と思える雰囲気づくりが何より大切です。
■家庭や学校でできる具体的な支援例
- 室内で風船バレーや玉入れ、的当て
- 音楽やリズムに合わせて体を動かす遊び
- 簡単なストレッチやマット運動
- ボール運動やバランスディスクなどの器具を使う
- 苦手なスポーツも「お手伝い」「応援」などの役割参加から始める
一人ひとりの“できる”レベルや興味に合わせて工夫することが大切です。
■保護者や大人ができること——「伸びる力」を信じて関わる
- できない部分ばかり指摘せず、「できる部分」「がんばった部分」を言葉にして伝える
- 「またチャレンジしようね」「一緒にやってみよう」と声かけする
- 比べるより、その子自身の成長を見守る
もし発達面で強い苦手さや悩みがあれば、理学療法士や専門家に相談することも大切です。
■まとめ:運動神経は“伸びる力” “できる”を増やすサポートを
運動神経は、生まれつきだけで決まるものではありません。
子どもは、体験と練習、そして「やってみたい」という気持ちを大切にすれば、必ず“できる”が増えていきます。
「運動が嫌い」「自信がない」子どもほど、最初の一歩をサポートしてあげることが大人の大切な役割です。
小さな成功やチャレンジを重ねていくうちに、子どもたちは「自分はできる」「またやってみたい」と前向きに変わっていきます。
子どもたちの「伸びる力」を信じて、日々の関わりを大切にしていきましょう。
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