近年、「外遊びの時間が減っている」「外で遊びたがらない」という声を、保護者や支援者からよく耳にします。
コロナ禍以降、屋内で過ごす時間が長くなり、タブレットやゲームなどの静的な活動が増えたことも影響しています。
スポーツ庁が公表した令和6年度(2024年度)「全国体力・運動能力、運動習慣等調査」では、体力や運動習慣の傾向にいくつかの重要な変化が見られました。
本記事では、理学療法士の視点から、外遊び不足が子どもの発達にどのような影響を与えているのか、そして家庭・特別支援教育の現場でできる工夫を最新データとともに解説します。
全国調査から見る体力・運動習慣の変化
最新の全国データ
文部科学省・スポーツ庁が実施した「全国体力・運動能力、運動習慣等調査(令和6年度)」によると、
小・中学生ともに体力水準はコロナ前より緩やかに回復傾向を示しつつも、依然として学年や性別による差・運動習慣の二極化が見られています。
- 体力合計点の全国平均:男子52.54点、女子53.93点
 (出典:文部科学省 令和6年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査報告書)
- 運動習慣の変化:
 週420分以上の運動時間(授業外活動)を確保している割合は、小学生で増加傾向を示す一方、中学生女子ではやや減少が見られました。
 (出典:スポーツ庁 調査結果概要)
- 運動時間の少ない層(週60分未満)は中学生全体で減少傾向にあるものの、依然として一定数存在しています。
 運動習慣の「二極化」が進みつつある点が指摘されています。
これらの結果は、「外遊びや自由な身体活動の時間が確保できる子」と「そうでない子」との間に、発達や体力面で差が広がる懸念を示唆しています。
外遊びが育む「体力」だけではない3つの発達基盤
外遊びの価値は、単に筋力や体力を高めることにとどまりません。
理学療法士の視点からは、外遊びは「体」「感覚」「心」の3つの発達基盤をつくる重要な経験です。
① 姿勢・体幹の発達
走る、登る、ぶら下がるといった動きは、姿勢を安定させる体幹筋を自然に鍛えます。
体幹がしっかりすると、長く座って学習する姿勢が安定し、集中力も持続しやすくなります。
特別支援級では、「姿勢が崩れやすい」「鉛筆を持つ手が疲れやすい」といった課題がよく見られます。
これは単なる筋力不足ではなく、全身を使う動きの経験が足りないことが背景にあります。
② 感覚統合(かんかくとうごう)の発達
外遊びでは、五感や身体感覚が豊かに刺激されます。
- ブランコや滑り台 → バランス感覚(前庭覚)
- 砂や草の感触 → 触覚・深部感覚(固有受容覚)
- 鬼ごっこや追いかけ遊び → 協調性・リズム感・ルール理解
こうした感覚の刺激は、後の「運動スキル」「集中力」「情緒の安定」に深く関係します。
外遊びが減ると、転びやすい、動きがぎこちない、力加減が難しいといった発達上の偏りが見られやすくなります。
③ 社会性・自己調整力の発達
公園での遊びでは、「順番を待つ」「ルールを守る」「助け合う」などの社会的スキルが自然に育まれます。
これらは、非認知能力(思いやり・我慢・協調性など)と呼ばれ、学校生活や社会参加の基盤になります。
発達特性を持つお子さんにとっても、外遊びは「人と関わりながら成功体験を積む」機会となります。
科学的根拠で見る外遊びの効果
- 幼児期の外遊び経験が学童期の活動性や社会性に影響する
 (Tsuge et al. 2024)
- スクリーンタイムの長さは発達に影響するが、外遊びがその影響を緩和する
 (Hinkley, T.et al.2018.)
- 屋外活動が多い子は睡眠リズムが整い、心理的ストレスが少ない
 (Shi et al., 2022 Bastianello & Silletti, 2024)
これらの研究から、外遊びが身体機能・神経発達・情緒安定・生活リズムなどに幅広い良い影響を与えることが分かっています。
家庭でできる「外遊び不足」対策
● 室内でもできる全身運動
外に出られない日でも、“体を使う遊び”を意識的に取り入れましょう。
- クッション山登り(登る・降りる)
- トンネルくぐり(机下や段ボールを活用)
- ボール転がしやキャッチ遊び
- 線の上を歩くバランスゲーム
これらは、体幹・バランス・協調性を自然に養います。
● 短時間でも外の刺激に触れる
10〜15分の散歩でも構いません。
太陽光を浴び、風や地面の感触を感じることは、体内時計を整え、睡眠リズムの安定に役立ちます。
● デジタル機器とのバランスを見直す
「見る時間」と「動く時間」を意識してバランスを取りましょう。
たとえば、「1時間映像を見たら10分体を動かす」など、家庭でルールを共有しておくことがおすすめです。
● 親子で“冒険の日”を作る
休日には、公園や自然のある場所に出かけて、親子で体を動かす時間を。
親が楽しそうに動く姿は、子どもの最大のモチベーションになります。
特別支援級・療育現場での実践例
- 室内サーキット(平均台・トンネル・マットを組み合わせ)
- 音楽に合わせたリズム体操
- パラバルーンなど集団で楽しめる遊び
- 「動いてから学習する」流れ(課題前に1分の運動タイム)
これらの活動は、感覚統合・体幹・社会性・集中力など複数の発達領域を一度に刺激します。
支援者同士で「子どもの動きの特徴」や「反応」を共有し、個別支援計画に反映していくことが大切です。
理学療法士の視点から:動きは「学びと心の土台」
動くことは、単に体力をつけるためだけではありません。
外遊びを通して、子どもは「自分の体を思い通りに使う力」や「挑戦して成長する経験」を重ねます。
少しの転倒や失敗も、発達の過程として温かく見守ることが大切です。
まとめ
- 外遊び不足は、体力・姿勢・感覚・社会性に幅広く影響する
- 令和6年度のデータでも、運動習慣の二極化が継続
- 家庭や支援現場でも「登る・くぐる・転がる」などの動きを意識的に取り入れる
- 短時間でも屋外刺激に触れる習慣を
- 支援者・保護者が“動きのパートナー”となることで意欲を引き出す
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