「先生の話を聞いていない」「気が散ってばかりで、ノートが進まない」「すぐ立ち歩いてしまう」
授業中に集中が続かない子どもへの心配は、多くの保護者が一度は感じることです。ただ、それは“やる気”や“性格”の問題ではなく、脳や体の発達段階に関係することもあります。
この記事では、「集中力」の正体と、その土台にある脳の働き、そして理学療法士の視点からみた集中力低下の要因と対応策についてお伝えします。
「集中力」ってそもそも何?
集中力とは、簡単にいえば「今、必要な情報に意識を向け、持続させる力」です。
この力は、生まれつき備わっているわけではなく、脳と身体の発達とともに育っていくものです。そして、「集中する」と一言で言っても、実は脳内では複数の働きが同時に関わっています。
集中に関わる脳のしくみ
集中力には以下のような脳の領域が関与します。
● 前頭前野(ぜんとうぜんや)
脳の最前部にあり、「思考」「判断」「感情のコントロール」「注意の切り替え」といった高次機能を担います。集中力や注意力の中枢でもあり、まだ発達途上の小学生では未熟な部分です。
● 網様体賦活系(もうようたいふかつけい:RAS)
脳幹にあるネットワークで、覚醒状態をコントロールします。「目の前のことに注意を向ける」ためのスイッチのような役割があります。
● 小脳・感覚系
実は運動を司る小脳も、集中に関係しています。小脳は「動きを調整する」だけでなく、「注意の持続」「予測する力」にも関与します。
さらに、視覚や聴覚、触覚などの感覚情報がうまく処理できないと、集中力が乱れやすくなります。
授業に集中できない子どもの“よくある背景”
子どもが集中できない理由は一つではありません。以下のように、複数の要因が組み合わさっていることが多いです。
1. 姿勢の問題(身体の土台)
理学療法士の視点でまず注目したいのは、「座っている姿勢」です。
・背もたれに寄りかかりすぎている
・イスのサイズが合っていない
・足が床に届いていない
こうした状態だと、無意識にバランスを取ることにエネルギーを使ってしまい、集中力を授業に向けにくくなります。
これは「身体の安定性」が「脳の注意機能」に影響を及ぼしている例です。
2. 感覚の過敏・鈍麻
・ちょっとした音やにおいが気になってしまう
・服のタグや椅子の感触が気になって集中できない
・逆に周囲に無頓着で、刺激に反応しにくい
これは「感覚処理」の問題で、感覚統合の未熟さが背景にあることがあります。感覚の情報が過剰または不足していると、脳は目の前の情報に注意を向けづらくなります。
3. 注意機能そのものの発達の偏り
「選択的注意(必要な情報だけを取り出す)」「持続的注意(長く集中する)」「転換的注意(切り替える)」といった注意のタイプごとに、得意・不得意が異なる子もいます。
例えば、話の最初は聞いているけれど数分で気が逸れる子は、「持続的注意」が弱いタイプかもしれません。
4. 睡眠や生活リズムの乱れ
前述の網様体賦活系(RAS)は、睡眠の質やリズムの影響を強く受けます。
・夜更かしや不規則な生活
・睡眠時間は足りているが、眠りが浅い
こうした状態では、朝からぼーっとして授業に集中しづらくなります。生活リズムは、脳の覚醒と注意機能に直結しているのです。
家庭でできる5つの対応・支援策
子どもの集中力を高めるには、「脳だけでなく体の準備」も整えることが重要です。理学療法士としての視点を交え、家庭でできる支援をご紹介します。
1. 足の裏がつく椅子環境を整える
足がブラブラしていると、姿勢が安定せず、体に余計な緊張が入ります。足台やクッションを使い、足裏・お尻・背中の「三点支持」が取れる姿勢を作りましょう。
2. 姿勢を崩す前に「体を動かす」
姿勢を注意するよりも、「動いてから座る」方が集中しやすくなる子が多いです。学校に行く前にジャンプや腕立て、ストレッチなどで全身を刺激するのも効果的です。
3. 音や光などの刺激を調整する
集中しやすい環境を整えるには、視覚・聴覚の刺激も整理が必要です。
・机の周りに余計なものを置かない
・テレビやラジオを消す
・イヤーマフなどで音を遮断する子もいます
五感の刺激を「整理」してあげることが、脳の集中を助けます。
4. 「〇分だけ集中」を一緒に練習する
集中力は筋トレのように少しずつ伸ばしていけます。「3分」「5分」など、無理のない時間で集中→休憩→再開のリズムを作ると、子どもは安心して取り組めます。
タイマーや視覚的なカードなどを使うと分かりやすいです。
5. 睡眠と朝の“脳のスイッチ”を整える
夜は同じ時間に寝て、朝は光を浴びる・軽く体を動かす・温かいものを飲むなど、脳を“起こす習慣”が有効です。
特に朝の運動(ジャンプや散歩)は、脳幹から前頭葉への覚醒レベルを引き上げてくれます。
さいごに:集中力は「発達中のスキル」
子どもが授業に集中できないと、「ちゃんとしなさい」「聞いてないの?」と注意したくなる場面もあるかもしれません。
でも、集中力は「まだ未完成な力」であり、身体や脳の準備が整っていないと発揮されにくいものです。
特に小学生くらいまでは、「発達の凸凹」や「環境とのミスマッチ」が集中力の問題に見えることもよくあります。
大人ができることは、叱るよりも「集中しやすい環境と身体の準備を整えること」。
そして、子ども自身が「集中できた!」という感覚を少しずつ積み重ねられるよう、温かく見守ることです。
理学療法士としては、「姿勢」「感覚」「運動」の視点から、その子に合った集中のスタイルを見つけるお手伝いもできます。
ご家庭だけで難しいと感じたときは、専門家と一緒に見立てを行うのもおすすめです。
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