赤ちゃんが母親に抱っこされて安心するのはなぜでしょうか?
それは、皮膚を通して得られる「触覚」の刺激が、脳と心に大きな影響を与えるからです。
触覚は“最初に発達する感覚”であり、人の発達や学びの土台を形作ります。
この記事では、触覚がどのように発達に関わっているのか、どんな体験で育っていくのか、そしてなぜ重要なのかを、科学的根拠と発達支援の視点から解説します。
1. 触覚とは?──発達の最前線で働く感覚
触覚は、皮膚にある受容器(センサー)で感じる感覚です。
大きく分けると次の2つの系統があります。
※わかりやすく伝えるため正式名称ではありません。
- 防御的触覚
皮膚表面の浅い層にある受容器で、危険や不快を察知します(熱い・冷たい・チクチク・痛いなど)。 - 識別的触覚
皮膚の深い層や関節・筋膜の受容器で、形・大きさ・質感・位置などを細かく感じ取ります。
この触覚は、胎児期(妊娠7〜8週)から発達を始め、五感の中で最も早く機能する感覚です。
そのため、赤ちゃんは生まれた瞬間から“触覚による世界との関わり”を始めています。
2. 触覚が発達に果たす役割
① 安心感と情緒の安定
- 抱っこ、なでる、包まれる感覚は、副交感神経を優位にして心を落ち着かせます。
- オキシトシン(愛情ホルモン)の分泌を促し、愛着形成や信頼感の土台を作ります。
② 身体図式(ボディイメージ)の形成
- 触覚は、自分の体の輪郭や位置を脳に“地図”として記録します。
- この「身体図式」がしっかりしていると、動きや姿勢が安定し、道具操作や微細運動もスムーズになります。
③ 感覚統合の基盤
- 触覚は、前庭覚(バランス感覚)や固有覚(筋肉・関節の感覚)と連携し、動作の計画や姿勢制御を支えます。
- 触覚情報の処理がうまくいかないと、服のタグや肌触りを極端に嫌がる「触覚過敏」、逆に強い刺激を求める「触覚鈍麻」などの特徴が出ることがあります。
④ 認知・学習の入り口
- 小さい子どもは「手で触って確かめる」ことで物の性質を学びます。
- 識別系触覚が発達すると、目を使わなくても形や材質を判別できるようになり、言語や概念の発達にもつながります。
3. 触覚はどうやって育っていくのか?
触覚は、年齢や発達段階に応じてさまざまな経験を通じて育ちます。
乳児期(0〜1歳)
- 抱っこ・肌と肌のふれあい(スキンシップ)
- おくるみで包まれる
- 沐浴やお風呂での水・温かさの感覚
- 床に寝転がり、布団やマットの感触を感じる
幼児期(1〜6歳)
- 砂遊び、水遊び、泥遊び
- 草や葉っぱ、石、木の実など自然物に触れる
- 積み木やブロック、粘土遊び
- 柔らかい・硬い・冷たい・温かいなどの多様な物に触れる
学童期(6〜12歳)
- スポーツでのボール、縄、マットなどの用具操作
- 美術・図工での工作、絵の具、紙、布、木材
- 調理や裁縫などでの手仕事
- ハイキングやキャンプでの自然体験
4. 触覚が不足するとどうなる?
触覚が十分に育っていない、または触覚情報の処理が偏っている場合、以下のような傾向が見られることがあります。
- 触覚過敏:服や靴下の素材を嫌がる、人混みでの接触を極端に避ける、髪を切られるのを嫌がる
- 触覚鈍麻:強く触れられないと気づかない、物を乱暴に扱う、常に何かを触っている
- 姿勢や動作の不安定:鉛筆やはさみの持ち方が不自然、力加減が難しい、体の位置感覚が弱い
- 情緒面の不安定さ:落ち着かない、集中が続かない、対人関係で距離感がつかめない
5. 触覚を育てるための関わり方
① 安心感を与えるスキンシップ
- 抱っこ、なでる、背中をトントンするなど、心地よい圧のある接触
- マッサージや“ぎゅっと抱きしめる”深圧刺激は落ち着きにも効果的
② 多様な素材・温度・形に触れる機会
- 家庭では、粘土・スポンジ・タオル・木・金属・水などの素材を遊びに取り入れる
- 季節の変化を感じる自然物(落ち葉、雪、花、草)にも積極的に触れる
③ 遊びを通じた触覚刺激
- 宝探しゲーム(箱や袋の中から手探りで物を当てる)
- 目隠しして形や材質を当てるゲーム
- 泥遊び、砂遊び、水風船遊び
④ 感覚過敏のある場合の工夫
- いきなり苦手な素材に触れさせない
- 子どもが好む感覚(やわらかい布、温かいお湯など)から少しずつ広げる
- 園や学校にも共有し、一貫した対応を行う
6. 根拠
- 感覚統合理論によると、触覚は情緒安定・行動調整の基盤であり、発達初期に十分な刺激を受けることが重要とされる。
- 触覚刺激は副交感神経を活性化し、ストレスホルモン(コルチゾール)を減少させることが生理学的に確認されている。
- 乳児期のスキンシップは、愛着形成とその後の社会性・学習能力に正の影響を与えることが複数の縦断研究で示されている。
まとめ
触覚は、人が生まれて最初に発達する感覚であり、安心感・身体の使い方・学びのすべての入り口となります。
現代は自然との触れ合いや多様な素材に触れる機会が減り、触覚経験が不足しやすい時代です。
家庭や学校で意識的に触覚経験を取り入れることは、子どもの発達を大きく支えることにつながります。
すこっぴーラボでは、理学療法士が専門的な視点でお子さんの動きや特徴を丁寧に分析し、保護者の方や先生と一緒に最適なサポート方法を考えます。
「動作分析をしてみてほしい」「プロの目でアドバイスが欲しい」という方は、ぜひ無料相談をご利用ください。
LINEやオンライン面談で、お子さんの困りごとやご不安を一緒に整理しながら、サポートの第一歩をお手伝いします。
コメント