「暑くて外で遊べない」「クーラーの効いた部屋でずっと過ごしていると、子どもがイライラ・落ち着かない」
こうした悩みを持つ親御さんは少なくありません。
外で思いきり体を動かせないと、 “感覚刺激”が足りなくなり、
子どもがソワソワしたり、かんしゃくを起こしたり、集中できなくなる――
現場でもよく聞かれる課題かと思います。
この記事では、なぜ子どもに感覚刺激が必要なのか、どんな感覚刺激をどうやって室内で補えばいいのかを、科学的な視点と家庭でできる工夫を交えてご提案します。
■なぜ「感覚刺激」が必要なのか?──脳と心の安定のために
●子どもの発達に不可欠な“感覚刺激”とは
- 人間は五感(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚)に加えて、
前庭覚(重力や揺れ、バランスを感じる感覚)や固有覚(筋肉や関節の動き・力の感覚)など、
さまざまな感覚を使って“体と心の安定”や“行動の調整”を行っています。 - 発達の過程では、こうした多様な感覚情報を十分に受け、統合することで、「姿勢の保持」「運動のスムーズさ」「集中力」「情緒の安定」が育ちます。
●感覚刺激が足りないとどうなる?
- 感覚統合理論の研究によれば、感覚入力が不足すると、「落ち着かない」「かんしゃく」「不安定な姿勢」「イライラ」「過度の興奮」などの行動が目立つことが報告されています。
- 外遊びや全身運動が減る現代、特に夏場や悪天候時は“感覚刺激不足”による子どもの困りごとが増える傾向があります。
●なぜ「荒れる」「落ち着かなくなる」のか
- 感覚刺激を求めて“わざと騒ぐ・体を揺らす・物を叩く”などの行動をとる子も多いです。
これは「問題行動」ではなく、“脳が必要な感覚刺激を欲しているサイン”であることも少なくありません。 - 逆に、適切な感覚刺激を入れてあげることで、落ち着きや集中力、情緒の安定が得られることが、臨床や研究で明らかになっています。
■どんな感覚を入れると良い?──「前庭覚」「固有覚」「触覚」を意識
1. 前庭覚(バランス・揺れ・回転の感覚)
- 前庭覚は「体の動きやバランス」「姿勢の保持」「気持ちの安定」に直結しています。
- 不足すると「そわそわ」「姿勢が安定しない」「集中が続かない」などのサインが出やすい。
2. 固有覚(筋肉・関節に入る力や重さの感覚)
- 固有覚刺激は「体にグッと力を入れる」「押す・引く・持ち上げる」などで得られます。
- 固有覚が入ると、体と脳が“落ち着きモード”になりやすい。自閉スペクトラム症やADHDの子でも「深圧(ぎゅっと抱きしめる・重い物を運ぶ)」などが有効とされています。
3. 触覚(皮膚を通して感じる感覚)
- ざらざら・ツルツル・冷たい・あたたかいなど、多様な刺激は「安心感」や「不安の緩和」に役立つ。
- 感覚過敏がある子には“心地よい触感”から始めるのがコツ。
■暑い日でも自宅でできる「感覚刺激」アイディア
●前庭覚を刺激する室内遊び
- バランスボールに乗って揺れる・跳ねる
- クッションや布団の上でゴロゴロ転がる・前後左右に揺れる
- スイングチェアやハンモック、室内ブランコ(安全に配慮して)
- 片足立ち・ケンケン・ラインの上を歩くバランス遊び
- ジャンプ・その場スキップ・“忍者ジャンプ”競争
●固有覚を刺激する遊び
- “重いもの”を運ぶ(本・水の入ったペットボトル・毛布など)
- イスやダンボールを押す・引っ張るレース
- 雑巾がけ・モップがけ・床を這う“動物歩き”
- 布団やクッションを重ねて「おしくらまんじゅう」ごっこ
- ギューっと抱きしめる、クッションで体を包む“深圧”
●触覚を楽しむ活動
- 氷・水・小麦粉・片栗粉・ビー玉・ビーズなどを使った“触感あそび”
- スライム・粘土・紙粘土で遊ぶ
- お風呂で泡や水流を楽しむ
- 足湯や手湯、冷たい/温かいタオルで“皮膚刺激”
- 好きな布・タオル・ぬいぐるみでリラックス
●「複数の感覚」を組み合わせるとより効果的
- 例えば、
バランスボール+重い物を運ぶ+クッションにダイブ=前庭覚+固有覚+触覚 - 「楽しい!」と感じる活動が一番“感覚が入りやすい”ので、無理なく遊び感覚で行うのがおすすめです。
■“家の中で荒れやすい”子のための支援のコツ
1. 短時間でも「感覚活動タイム」を毎日つくる
- 朝や夕方など、タイミングを決めて5〜10分でもOK
- 兄弟や親子で一緒にやると「競争」「ごっこ遊び」要素でさらに楽しく
2. “気持ちが落ち着く”感覚も見つけておく
- 例えば、「重い毛布にくるまる」「好きな音楽を流す」「ぬいぐるみをギュッと抱く」など
- 一人ひとり“落ち着きやすい感覚”は違うので、子どもの反応を観察しながら“ベスト”を探す
3. 感覚過敏がある場合は“苦手な感覚”に配慮する
- いきなり強い刺激を与えず、子どもが“心地よい”と感じる範囲で少しずつ
- 苦手な感覚を無理に与える必要はありません
4. “叱る前に”感覚刺激を試してみる
- 「落ち着きなさい」と注意するだけでは効果がないことも
- 感覚刺激を入れた後、「落ち着いて行動できたね」「集中できたね」と“できた”を認める声かけが効果的
5. 「困ったときは感覚遊び!」を合言葉に
- 子ども自身が「イライラする」「うまくいかない」と感じたとき、自分で“感覚活動”を選べるようになるのが理想です
- 壁に「やってみよう感覚リスト」などを貼っておくのもおすすめ
■まとめ
暑さで外遊びができなくても、室内での「感覚刺激」活動を工夫することで、子どもの心と体の安定は十分サポートできます。
- 感覚刺激(前庭覚・固有覚・触覚)は、情緒の安定や集中力に直結
- 無理に外に出さず、家の中でも“楽しく体を動かす”“重い物を運ぶ”“さまざまな触感にふれる”工夫が有効
- 叱るより“感覚刺激”で気持ちをリセットする方法を優先
- 子どもの反応を見ながら「心地よい感覚」「楽しい感覚」をたくさん増やしていく
困った時は、一人で抱え込まずに専門家にもご相談ください。
お子さんの「落ち着き」「ごきげん」の土台を、ぜひご家庭で育てていきましょう!
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