子どもと関わる中で、「服のタグが気になる」「教室の音に耐えられない」「少し触っただけで怒る」 そんな様子を見たことはありませんか?
これらの背景にあるかもしれないのが、「感覚過敏(かんかくかびん)」という状態です。
この記事では、感覚過敏の基本的な理解から、起こりやすい困りごと、家庭でできる支援方法までをお伝えします。
感覚過敏とは?
私たちは、五感(視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚)や身体の中の感覚(固有感覚や前庭感覚)から、たくさんの情報を受け取りながら生活しています。
通常であれば、これらの感覚を「ちょうどいい具合に処理」して生活できますが、感覚過敏がある場合は、その刺激が強すぎたり、不快に感じたりします。
つまり、「刺激を受けすぎてしまう状態」です。
感覚の種類と過敏の例
感覚過敏は、どの感覚にも起こり得ます。以下はその一例です。
◆ 聴覚過敏
- 教室のざわざわが耐えられない
- 騒がしい場所でパニックになる
- 他の人には気にならない音が「うるさい」と感じる(時計の音、蛍光灯の音など)
◆ 触覚過敏
- 洋服のタグ、靴下の縫い目が不快
- 髪をとかす・爪を切る・顔を拭くなどの日常的な触れ合いが苦手
- 他人とぶつかるのを極端に嫌がる
◆ 視覚過敏
- 明るすぎる光に不快を感じる
- 色や模様がうるさく見えて集中できない
- 物が多い教室では落ち着かない
◆ 前庭覚(バランスの感覚)過敏
- ブランコやすべり台を極端に怖がる
- エレベーターや車酔いをしやすい
- 目が回るような刺激が苦手
◆ 嗅覚・味覚過敏
- 食べ物のにおいや味に敏感(偏食・選り好みが強い)
- 他人の香水や洗剤のにおいがつらい
感覚過敏によって起こりやすい困りごと
感覚過敏は、ただ「刺激に敏感なだけ」ではありません。
その結果、日常生活や学習、対人関係にも困りごとが現れることがあります。
● 教室での困りごと
- 音やにおいに過敏で集中できない
- 友だちと体がぶつかるのが嫌で体育や集団活動を避ける
- 明かりがまぶしくて黒板が見づらい
● 家庭生活での困りごと
- 洋服を着たがらない(素材・タグなどが原因)
- 入浴や歯磨きを極端に嫌がる
- 食事の偏食(特定の食感やにおいを拒否)
● 情緒・行動への影響
- 周囲に理解されないことで叱られたり誤解されやすい
- 刺激から身を守るために“かんしゃく”や“フリーズ”が起きやすい
- 常に緊張状態で、疲れやすい
感覚過敏の背景にあるもの
感覚過敏は、自閉スペクトラム症やADHDなどの発達特性と関連することが多いですが、診断の有無に関係なく起こりうるものです。
また、子どもは大人に比べて「感覚の調整機能(感覚統合)」が未熟なため、年齢や発達段階によって過敏さが強く出ることもあります。
感覚過敏のある子どもへの支援の基本
感覚過敏の支援で大切なのは、「慣れさせる」ではなく、「刺激を減らし、安心して過ごせる環境をつくること」です。
🔸 1.刺激を減らす工夫
- 聴覚過敏: ノイズキャンセリングヘッドホンや耳栓を使う、静かな場所を用意する
- 触覚過敏: タグのない衣類、素材を選べるようにする
- 視覚過敏: カーテンを使って光を調整、壁の装飾を少なくする
🔸 2.予測と見通しを持たせる
- あらかじめ「何が起こるか」「どんな感覚があるか」を説明する
- 写真やイラストで刺激のある場面を見せておく
- 休憩場所や逃げ場を作っておく
🔸 3.感覚に合った働きかけ
理学療法士の立場から言えば、「身体から安心感をつくる」アプローチも有効です。
例えば以下のような工夫があります。
▶ 固有感覚の活用
- 重いリュックを背負う
- ふとんや加重ベストを使う(包まれる安心感)
- 壁に押す、足を踏みしめる、クッションに埋まるなど
これらは「身体の位置を感じる力(固有感覚)」を使うことで、過敏な感覚を落ち着かせることにつながります。
感覚過敏への理解が、子どもを楽にする
感覚過敏のある子どもは、「わがまま」「気にしすぎ」ではありません。
見えない不快感やストレスと日々たたかっているのです。
大人がその感覚に気づき、少し環境を整えるだけで、子どもたちは驚くほど安心して過ごせるようになります。
まずは、「この子は何に困っているのか」「どんな感覚がつらいのか」を一緒に探っていくことから始めましょう。
おわりに:感覚過敏とつきあうために
感覚過敏は「治す」ものではなく、「つきあい方を見つける」ものです。
工夫次第で、子どもはぐんと生活しやすくなります。
感覚に配慮した関わり方は、子どもだけでなく、周りの大人にもやさしい支援になります。
ぜひ、日常のちょっとした場面から試してみてください。
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