「この子、音に敏感で…」「触られるのを嫌がる」「姿勢が崩れやすいけど、なぜ?」
そんな困り感の背景には、感覚の発達段階の違いが隠れているかもしれません。
子どもは生まれながらにしてさまざまな「感覚」を持っており、それぞれが年齢や発達段階によって育ちやすいタイミングがあります。
この記事では、触覚・前庭覚・固有受容覚・視覚・聴覚など、発達に大切な感覚の特徴を年齢別にわかりやすく解説。
子ども一人ひとりの「今」の感覚発達を知ることで、日々の関わり方や環境づくりが変わってきます。
感覚発達の全体像 〜脳と感覚の土台は順番に育つ〜
人の脳は、発達の順序があります。
発達の基本的な流れ
- 脳幹部(生命維持・原始反射など)
- 小脳(姿勢制御・協調運動)
- 大脳辺縁系(情緒・記憶)
- 大脳新皮質(思考・言語・判断)
これと並行して、感覚も以下の順に発達すると言われています:
感覚の発達順序(Ayres, 1972)
- 触覚・前庭覚・固有受容覚(0〜3歳頃に基礎が形成)
- 聴覚・視覚(3〜6歳で急激に成熟)
- 複合感覚(感覚統合)(6歳以降〜思春期)
0〜1歳:原始反射とともに育つ「触覚・前庭覚・固有受容覚」
【触覚】(触られる感覚)
- 生後すぐにもっとも強く働く感覚
- 皮膚への触れ合い=安心の源
- 原始反射(モロー反射、把握反射)にも関与
こんな関わりが効果的:
スキンシップ、ベビーマッサージ、タオルでくるむなど
📖 Sullivan et al., 2011:「親のスキンシップは、乳児の情緒安定とストレス反応を軽減する」
【前庭覚】(バランス感覚・傾きの感知)
- 頭が傾いたり回ったりする動きに関わる感覚
- 生後数ヶ月で発達が急速に進む
- 視線の安定・頭の保持・姿勢制御に影響
効果的な刺激:
抱っこでの揺れ、バウンサー、バランスボールなど
【固有受容覚】(筋肉・関節の動きや力の感覚)
- 体の位置や力加減を感じる感覚
- 自分の体の「地図」を作るのに必要
- 生後すぐから、寝返り・おすわり・ハイハイで育つ
おすすめの活動:
寝返り遊び、ハイハイ競争、引っ張り遊びなど
1〜3歳:動きが広がると感覚も飛躍的に育つ
この時期は原始反射が統合され、意図的な動きが増えるタイミング。
【触覚】が「防衛反応」へと変化する
- 好きな触感・嫌いな触感が明確になる
- 砂場や水遊びへの反応に差が出やすい
- 「触覚過敏・鈍麻」の兆候が出ることも
工夫:
無理に触らせず、タオル・ブラシなどで慣らすステップを
【前庭覚】で運動と情緒が結びつく
- 走る・回る・ジャンプが増える
- 感情の起伏が大きくなるのも前庭覚の発達と関係
- 不安定な子はブランコなどでの恐怖感が強い
📖 Ayres (1979):「前庭覚は情緒の安定と自己調整力の土台」
【固有受容覚】で“自分の体”のイメージが完成へ
- 「どこに体があるか」「どのくらい力を入れるか」が育つ
- 筋トーンが低いと転びやすく、動きが不器用に見える
遊び例:
クッション運び、段差昇降、綱引きなど重さを感じる遊び
3〜6歳:視覚・聴覚の急成長と“感覚統合”の始まり
この時期は、外界とのやりとりが爆発的に広がる時期です。
【視覚】が学習の柱に
- 図形、空間把握、読み書きなどに深く関与
- 眼球運動(見る方向の切り替え)が学習効率に直結
- 過剰なスクリーン視聴は視覚処理に悪影響を与える可能性も
例:
迷路遊び、間違い探し、パズルなど
【聴覚】で言語理解・記憶力が向上
- 「音の高さ」「速さ」「指示の順序」を処理する力がつく
- 聴覚処理に課題があると、言語理解・指示の聞き取りに困難が出やすい
工夫:
歌に合わせて動く、リズム遊び、口ずさむ活動
📖 Kuhl et al. (2005):「乳児期の音声刺激が、言語発達に大きな影響を与える」
6歳〜思春期:統合・選択・制御の時期へ
いよいよ、複数の感覚を同時に処理して行動する力=感覚統合能力が発達します。
- 読む・書く・計算するなど、高度なスキルには多感覚の統合が必要
- 姿勢を保ちながら机上作業をする=固有覚+前庭+視覚の統合
- チームスポーツでは視覚+聴覚+運動制御を同時に使う
この時期にうまく統合ができないと、「学習の遅れ」「不器用」「集中できない」などの困り感として現れやすくなります。
感覚の発達を支える日常の工夫
感覚は「適度な刺激」で育ちます。日常で取り入れられる活動は、特別な教材がなくてもOK。
年齢別のおすすめ刺激
年齢 | 感覚 | 活動例 |
---|---|---|
0〜1歳 | 触覚・前庭覚 | 抱っこで揺らす、マッサージ |
1〜3歳 | 固有覚・前庭覚 | ハイハイ競争、ジャンプ遊び |
3〜6歳 | 視覚・聴覚 | パズル、歌あそび、図形カード |
6歳〜 | 感覚統合 | スポーツ、組み立て作業、道案内ごっこ |
まとめ:子どもの感覚は「その子なりのペース」で育っていく
感覚の発達には年齢ごとに“育ちやすいタイミング”があり、それを逃さず刺激することがとても重要です。
- 触覚が過敏なら無理に触らせず、やさしく慣らしていく
- 姿勢が崩れやすい子には前庭や固有覚を育てる遊びを
- 集中が続かない子には“感覚の土台”が整っているか確認を
「困り感」の背景には、見えない“感覚の未成熟”が隠れていることが非常に多くあります。
子ども一人ひとりの感覚発達に合わせた関わりをすることで、もっと安心して生活し、もっと伸びやかに学べる環境がつくれるはずです。
また、感覚は使っていくことでいつからでも発達を促すことができます。
困りごとの背景には何があるのかを把握し、それらを発達させる支援を探していくことが問題解決の初めの一歩になるかもしれません。
参考文献
- Ayres, A.J. (1972). Sensory Integration and Learning Disorders.
- Sullivan, R., et al. (2011). The role of touch in early development. Developmental Cognitive Neuroscience.
- Kuhl, P.K., et al. (2005). Early speech perception and later language development. Annual Review of Neuroscience.
- 中村育子(2015)『感覚統合で伸ばす子どもの力』明治図書出版。
- 吉川尚子(2020)『子どもの感覚を育てる発達遊び』ひかりのくに。
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