「うちの子、よく転ぶんです」「姿勢がすぐ崩れてしまう」「運動が苦手で…」このような悩みを抱える方はいませんか?
これらの背景には、「バランス感覚の未発達」が関係していることが少なくありません。
子どもが日常の動作をスムーズに行うには、身体の位置を感じ取り、安定させ、必要に応じて調整する力が必要です。この力が「バランス能力」と呼ばれるものです。
バランス能力の発達には、「前庭覚(ぜんていかく)」と「固有覚(こゆうかく)」という2つの感覚が深く関わっています。
この記事では、前庭覚・固有覚の役割やバランス感覚との関係を解説した上で、家庭でできる遊びを5つ紹介します。
■前庭覚と固有覚ってなに?
●前庭覚:からだの傾きや動きを感じるセンサー
前庭覚とは、内耳(耳の奥)にある感覚で、「頭がどの方向に傾いているか」「体がどのくらいの速さで動いているか」などを感じ取る働きがあります。
ブランコに乗って揺れる、ぐるぐる回る、ジャンプする
こういった遊びは前庭覚を刺激し、「身体の動きの感覚」を養うのにとても有効です。
この感覚がうまく働かないと、体の動きに対する反応が鈍くなったり、逆に過敏になったりすることがあります。姿勢の安定や空間把握にも影響します。
●固有覚:筋肉や関節で感じる「からだの位置」
固有覚は、筋肉や関節にある受容器を通じて、「今、自分の腕はどこにある?」「足にどれくらい力が入っている?」といった身体の位置や力の入り具合を感じる感覚です。
この感覚が育っていないと、「物を強く握りすぎる/弱すぎる」「筆圧が安定しない」「体がふにゃふにゃしている」といった困りごとが見られることもあります。
理学療法の分野では、前庭覚と固有覚が発達することで、バランス能力や姿勢保持、運動の安定性が高まることが知られています。
■なぜ「遊び」がバランス感覚の発達に効果的なのか?
子どもの感覚・運動発達は、遊びの中で自然に育っていくものです。
- 走る
- 登る
- 揺れる
- 跳ねる
- くぐる
こうした動きは、前庭覚や固有覚を刺激し、身体の感覚や動きの協調性を高めてくれます。
しかも「やらされる運動」よりも、「楽しいから自分からやる」運動の方が、効果が高いという研究もあります。
では、実際にどのような遊びが前庭覚・固有覚の発達に効果的なのか、次の章で5つ紹介します。
家庭でできる!バランス感覚を育む運動遊び5選
1. ブランコ遊び(前庭覚)
効果:揺れを通して前庭覚を刺激し、バランス感覚の基礎を養う
ブランコはシンプルですが、非常に良い前庭刺激になります。
前後に揺れることで頭の動きが大きく変化し、それに応じて姿勢を調整する力が育ちます。
- できれば自分でこぐ体験が理想的
- 姿勢が崩れやすい子は、タイヤ型ブランコや背もたれ付きのブランコでもOK
「気持ちいい」「もっとやりたい」と感じる心地よい刺激であれば、繰り返し行うことで自然にバランス能力が高まっていきます。
2. ジャンプ&着地遊び(固有覚+前庭覚)
効果:足からの衝撃で固有覚を刺激。空間感覚・力加減の育ちにも◎
トランポリンやマットの上でのジャンプ、階段からのジャンプ遊びは、着地時のドスンという衝撃が固有覚に強く働きかけます。
- 高さのあるところから「ジャンプ&着地」
- 「ケンケン」や「スキップ」など片足動作も良い刺激に
ジャンプは体幹や下肢の筋力も同時に育てられるので、姿勢保持や運動全体の安定にもつながります。
3. くぐる・よじ登る(固有覚+前庭覚)
効果:空間把握と身体のコントロール力を育てる
椅子と毛布でトンネルを作ったり、クッションの山を登ったりする遊びは、体を自分でコントロールしながら動かす練習になります。
- 狭い空間をくぐる:自分の身体サイズを把握する力が育つ
- よじ登る:手足にしっかり力を入れる感覚を養う
特に「空間把握が苦手」「物によくぶつかる」といった子にはおすすめの遊びです。
4. バランス遊び(バランスボード、片足立ちなど)
効果:姿勢調整力と足底からの感覚入力を強化
バランスディスクやクッションの上で立ったり、片足立ちしたりする遊びは、バランスの微調整を自然に促します。
- 「10秒間、ぐらぐらしないで立てるかな?」
- クッション道やタオル道で「落ちずに進めるかゲーム」も◎
子どもはゲーム形式にするとぐっと集中します。「遊びながらバランス訓練」が理想的です。
5. 布遊び・引っ張り合い(固有覚)
効果:力の加減を学び、身体の中心を感じる感覚が育つ
布の端と端を持って、綱引きのように引っ張り合いっこしたり、布を丸めて投げたりする遊びは、筋肉や関節に「引っ張る」「押す」といった刺激を与えます。
- 大きなバスタオルやシーツが便利
- 無理な力ではなく、「ちょうどいい力」を使うことがポイント
この「ちょうどよく力を入れる感覚」が、鉛筆の持ち方や道具の使い方にもつながっていきます。
■おわりに:バランス感覚は“遊び”で育つ
バランス能力は、体の安定性・注意力・運動能力・学習姿勢など、さまざまな場面に影響を及ぼす「土台の力」です。
その力は、日常の中の“動き”や“遊び”を通して育てていくことができます。
特別な器具や広いスペースがなくても、家庭にあるもの・少しの工夫でできる遊びはたくさんあります。
子どもの動きや姿勢に不安を感じたときは、
「ちゃんと座れていない」などの表面的な行動だけでなく、感覚や身体機能の発達段階に目を向けてみることも大切です。
理学療法士としては、こうした“動きの土台”に注目しながら、子どもたちの健やかな育ちを支える視点を、今後も伝えていきたいと考えています。
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