「好き嫌いが多い」「ごはんを食べてもすぐ疲れてしまう」「集中力が続かない」
こうした子どもの様子には、食事や栄養が影響しているかもしれません。
身体の発達は、運動だけでなく“食べる”という習慣と栄養バランスによって大きく左右されます。
理学療法士の視点から、発達段階ごとに必要な栄養素や避けたほうが良い食べ物、そしてその根拠について解説していきます。
1. 子どもの発達と栄養の関係性とは?
子どもは日々成長し続ける「発達過程」にある存在です。
その発達には、運動や学習だけでなく、神経・筋肉・骨・臓器の成熟も含まれ、これらには多くのエネルギーと栄養素が必要です。
理学療法士として運動や姿勢に関する支援をしていると、年齢を問わず「筋力がつきにくい」「疲れやすい」「集中できない」といった相談を受けることがあります。
これらの背景には、栄養不足や栄養の偏りが隠れているケースも少なくありません。
2. 成長期に必要な主要栄養素とその働き
子どもの成長において、最も大切なことは「どれだけ食べているか(総カロリー)」です。
体を作る材料(栄養素)を運び、エネルギーとして燃やすベースに、まず十分なカロリーが必要です。
たとえば、厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」によると、以下のようなカロリー量が目安とされています。
年齢 | 男の子の推奨カロリー | 女の子の推奨カロリー |
---|---|---|
6~7歳 | 約1,450~1,650kcal | 約1,400~1,600kcal |
10~11歳 | 約2,000~2,200kcal | 約1,950~2,100kcal |
12~14歳 | 約2,400~2,600kcal | 約2,200~2,400kcal |
カロリー不足のサイン
- 活動量が少なく、すぐ疲れる
- 集中力が続かない
- 成長曲線のカーブがゆるやかになってきた
- 食事量が全体的に少ない
このような場合、栄養バランスよりもまず「食べる量」を見直してみることが大切です。
摂取カロリーを十分にとれるようになってからは以下のようなカロリーの質についても目を向けてみるとより効果的です。
◆ タンパク質(筋肉や臓器の材料)
働き:筋肉や神経組織、免疫機能をつくる
必要性:筋力や姿勢保持に欠かせない
含まれる食品:魚、肉、卵、大豆、乳製品など
日本人の食事摂取基準(2020年版)では、7〜12歳の子どもには1.0〜1.2g/kgのたんぱく質が推奨されています。
◆ 鉄(脳と神経の発達に必須)
働き:酸素運搬、脳神経機能の正常化
欠乏すると:集中力低下・学習能力の低下
含まれる食品:赤身の肉、レバー、ひじき、小松菜
鉄欠乏は注意力・記憶力低下との関連があり、学童期において学力にも影響することが報告されています(Beard, 2001)。
※過剰摂取も健康被害の可能性があるため適量の摂取を心がけることが必要です。
◆ カルシウム・ビタミンD(骨の成長と姿勢保持)
働き:骨格形成と姿勢の安定
含まれる食品:牛乳、チーズ、小魚、キノコ類
小児期の骨密度は成人期の骨の強さに影響し、早期のカルシウム・ビタミンD摂取が推奨されています(Bonjour et al., 2009)。
◆ 脂質(エネルギー源・脳神経の構成)
DHAやEPAは神経細胞の構成に関与
含まれる食品:青魚(サバ・いわし・さんまなど)
Carlson SE et al.(1993)による研究では、母乳中のDHAが高いと、乳児期の視覚および神経発達スコアが向上することが示されています。
また、Lauritzen L et al. (2016) によるレビュー研究では、子どもの脳と認知発達においてDHAを含む長鎖多価不飽和脂肪酸の摂取がポジティブな影響を与えると報告されています。
3. 発達段階における栄養ニーズの変化
年齢層 | 主な発達課題 | 特に必要な栄養素 |
---|---|---|
1〜3歳 | 味覚形成・消化発達 | 鉄・脂質・ビタミンD |
4〜6歳 | 運動発達・神経接続の強化 | タンパク質・鉄・亜鉛 |
7〜12歳 | 骨格筋成長・集中力向上 | カルシウム・ビタミンB群・DHA |
13〜15歳 | 第二次性徴・急成長 | 鉄・タンパク質・ビタミンC |
4. 避けたほうがよい食品・習慣
◆ 加工食品・スナック菓子・清涼飲料水
トランス脂肪酸・リン酸塩・砂糖の過剰摂取によって骨代謝や神経伝達に悪影響
例:ポテトチップス、菓子パン、炭酸飲料
過剰なリン摂取がカルシウムの吸収を阻害することが報告されています(Calvo & Uribarri, 2013)
◆ 朝食抜き習慣
血糖値が安定せず、集中力や記憶力が低下
朝食を食べる子どもは学力や身体活動が高い傾向(Adolphus et al., 2016)
※朝食を食べると頭が良くなるというわけではなく、朝食をしっかり食べさせている親は相対的に教育レベルが高く、その結果、学力や身体活動が高いという解釈もできますが…。
5. 理学療法士として伝えたい:運動×栄養の相乗効果
身体は「使うことで育つ」と言われますが、使うだけでは成長しません。
“動かす”と“栄養を摂る”のセットが大切です。
たとえば、
- トレーニングしてもタンパク質不足なら筋肉は育たない
- 骨を刺激する運動があってもカルシウムが不足していれば骨密度は上がらない
つまり、私は「動きの支援+食の支援」こそが本質的な発達支援であると考えています。
6. ご家庭でできる3つの栄養サポート
① 1日3食を「育ちの時間」と考える
量より質。主食・主菜・副菜+乳製品 or 果物を揃えるだけでもOKです。
② 毎日の食事に「育てる食材」を1品加える
納豆、ゆで卵、焼き魚、チーズ、小松菜など、栄養価の高いものを少しずつ。
③ 楽しい食卓の雰囲気づくり
「一緒に作る」「褒める」「一口からでOK」と心理的安心感を大切に。
7. まとめ:発達は、運動と栄養の両輪で進む
栄養は“身体づくりの基盤”であり、運動発達・学習・情緒安定にも直結します。
ご家庭でも、「よく動く」「よく食べる」「よく眠る」のサイクルを整えることが、発達を支えるもっとも重要な土台になります。
【参考文献・エビデンス】
- Beard JL. Iron deficiency alters brain development and functioning. J Nutr. 2001;131(2S-2):S568-80.
- Bonjour JP et al. Nutritional aspects of hip fracture prevention. Osteoporos Int. 2009;20(9):1651–1662.
- Calvo MS, Uribarri J. Public health impact of dietary phosphorus excess on bone and cardiovascular health. Nutrients. 2013;5(10):402-29.
- Adolphus K et al. The effect of breakfast on behavior and academic performance in children and adolescents. Front Hum Neurosci. 2016;10:500.
- 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
コメント