「どうしてうちの子は、あんな行動をするんだろう?」
「注意しても変わらなくて困っている…」
「学校で取り組みたいけれど、どう関わればよいかわからない」
そんな時に役立つのが ABA(Applied Behavior Analysis:応用行動分析) です。
ABAは、子どもの行動を“科学的に理解し、支援につなげる”ためのアプローチで、特に発達支援の分野で広く活用されています。
難しい理論のように見えますが、家庭や学校で使えるシンプルな考え方が多く、知っていると子どもとの関わりがぐっと楽になります。
結論から言うと、子供が「行動の後に気持ちいいと感じる行動は増える」「気持ち良くないと思えば行動が減る」
この記事では、専門的な視点を大切にしつつ、親御さんや先生に向けて ABAの基本と実践のコツをわかりやすく解説します。
行動には必ず “理由” がある
ABAの中心的な考え方は、とてもシンプルです。
子どもの行動には必ず理由があり、環境を調整すれば行動は変わる。
「わざとやっている」「性格の問題」と考えてしまいがちですが、ABAでは“行動が生まれる理由”を冷静に見立てます。
その理由を知るだけで、
✔声かけが変わる
✔対応の優先順位がわかる
✔子どもが落ち着いて行動しやすくなる
といった変化が期待できます。
行動を理解するための基本:ABCモデル
ABAでは、行動を次の3つに分けて整理します。
A:先行条件(Antecedent)— 行動の直前にある「きっかけ」
例:
- 難しい課題を出された
- 環境が騒がしい
- 予想外の予定変更が起こる
- 長く待つことになった
B:行動(Behavior)— 実際の行動
例:泣く、逃げる、叩く、注意がそれる、座る、取り組む など
※観察できるものに限定します。
C:結果(Consequence)— 行動の直後に起きること
例:
- 大人が助ける
- 課題が中断する
- 注目が集まる
- ごほうびがもらえる
行動が続くのは、
「その行動をしたことで、子どもにとって何か良いことがあった」
または
「嫌なことを避けられた」
からです。
これは、家庭でも学校でも共通して見られる仕組みです。
行動が起きる4つの理由(行動の機能)
ABAでは、行動の目的を以下の4つに整理します。
これを理解すると“何に困っているのか”が見えやすくなります。
① 逃避(Escape)
苦手な課題や刺激から離れたい。
例:
宿題になるとかんしゃく を起こす→ 宿題が止まる→ その結果、かんしゃくが続きやすくなる
② 注目(Attention)
大人や友達に構ってほしい。
例:
授業中に大声 → 注意される→ 本人にとっては「注目」が得られる
③ 要求(Tangible)
欲しいものや活動を手に入れたい。
例:
お菓子を買ってほしくて泣く → 買ってもらえる
④ 感覚刺激(Sensory)
特定の動きや感覚が心地よい/不快を避けたい。
例:
手をひらひらさせる、身体をゆする など
行動を変えたいときは、この“理由”を間違えないことがとても重要です。
理由がズレると、どれだけ頑張っても改善が見られません。
ABAで使われる主な支援方法(家庭・学校で応用しやすいものを中心に)
難しい技法もありますが、ここでは“現場で使いやすいもの”を厳選して紹介します。
① 強化(Reinforcement)— 望ましい行動を増やす仕組み
ポイントは 「良い行動の直後に良い結果を返す」こと。
例:
・片付けをしたら、好きな遊びを少しする
・授業で手を挙げて答えられたら、先生が肯定的に声をかける
子どもにとって価値があるものを使うことが大切です。
② 先行条件(環境)を整える
行動が起きにくい状況を作ることは、家庭・学校で最も使いやすい方法です。
例:
- やることを事前に伝える
- 課題を細かく分ける(スモールステップ)
- 選択肢を与える
- 音や人混みなど、苦手な刺激を減らす工夫
③ プロンプト(ヒント)とフェイディング(徐々に減らす)
子どもが成功できるようにサポートし、徐々に手助けを減らします。
例:
- 最初は手を添える
- 次に指差しだけにする
- 最終的には見守るだけにする
④ 代替行動(DRA)の強化
“良くない行動をやめさせる”のではなく、
「その代わりにできる良い行動」を育てる方法 です。
例:
叩く → 「手を後ろに組む」「言葉で要求する」などの行動を強化
望ましくない行動と競合する行動を教えると、自然と落ち着きやすくなります。
ABAは「子どもをコントロールする技術」ではない
一部で誤解されることがありますが、
現代のABAは 罰を使って従わせる方法ではありません。
大切なのは、
- 子どもの尊厳
- 自律性
- 本人の意欲
- 本人にとっての“生きやすさ”
です。
ABAの目的はもちろん、大人が楽になるためだけではなく、子ども自身が困りにくくなるための関わりです。
家庭や学校で今日からできるABA的サポート
具体的で再現性の高い方法だけ紹介します。
● 選択肢を与える
例:
「先に宿題とお風呂、どっちにする?」
→ 主体性が高まり、逃げる行動が減りやすい
● 見通しを伝える(タイマー・スケジュール)
不安が減り、行動が切り替わりやすくなります。
● 良い行動を具体的にほめる
例:
「静かに椅子に座れたね」→ 行動が明確になるので再現しやすい
● 癇癪に機能を見立てて対応する
- 逃避が目的 → 課題の量調整・見通しの提示
- 注目が目的 → 大げさに反応しない
- 要求が目的 → 代わりの伝え方を教える
- 感覚刺激 → OT的支援・環境調整が必要なこともある
ABAを使うときの注意点
- 罰は使わないことが基本
- 行動の“機能”の誤りは逆効果
- 子どもの意欲を奪わないこと
- 自傷・他害など強い行動には専門家の評価が必要
まとめ:ABAは子どもが安心して行動できる環境を整える科学
ABAは“行動を矯正する方法”ではなく、
子どもの困りを理解し、生きやすくするための科学的アプローチです。
家庭や学校でも取り入れやすい考え方が多く、
環境調整・代替行動・成功体験を中心に進めることで、子どもが安心して成長していく土台づくりにつながります。


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