子どもが小学生から中学生に成長していく時期は、心も体も大きく変化する「成長の分岐点」です。
この時期には、身長や筋力の急な伸びに加え、生活環境・心理・人間関係の変化も重なり、運動への関わり方が大きく変わります。
今回は、理学療法士の視点から、思春期の体の発達と運動習慣の関係をわかりやすく整理し、
家庭や学校でどのように支えていけるかを解説します。
1. 思春期の体の変化──“急成長期”に起こること
◆ 成長スパートと骨の発達
思春期に入ると、身長が一気に伸びる「成長スパート」が始まります。
女子は8〜13歳、男子は10〜15歳ごろにピークを迎えることが多く、1年間で10cm近く伸びる子もいます。
この急激な骨の成長に筋肉や腱の柔軟性が追いつかないと、
「体がかたい」「動きがぎこちない」「膝や踵が痛い」といった訴えが見られることもあります。
骨の強さを高めるには、“荷重刺激”が欠かせません。
つまり、自分の体重を支える・跳ぶ・走るなどの動きが、骨を丈夫に育てます。
厚生労働省『健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023』でも、
「骨や筋肉に負荷をかける運動を週3回以上取り入れる」ことが推奨されています。
◆ 筋肉とホルモンの変化
男子ではテストステロンの影響で筋肉量が増え、
女子ではエストロゲンの作用で体脂肪がやや増加します。
これは自然で健康的な変化ですが、見た目の変化に敏感になりやすく、
「太ったかも」「人前で動きたくない」と感じる子もいます。
このような体への意識の変化は、運動習慣の維持に大きく影響します。
否定せず、自然な変化であることを伝えながら、「体を動かすと気持ちが軽くなる」「リフレッシュできる」など、運動の“心のメリット”にも目を向けることが大切です。
2. 思春期に運動量が減りやすい理由──研究から見える傾向
多くの調査で、小学校高学年〜中学生にかけて運動量が減少することが示されています。
国際的な研究では、10〜13歳ごろから身体活動が急に低下し、
そのまま高校生〜成人期まで運動不足が続くケースも少なくありません。
この傾向には、いくつかの要因が関係しています。
◆ 学業・生活リズムの変化
中学生になると、学習時間や塾、部活動などで自由時間が減少します。
一方で、スマートフォンやゲームなど“座って過ごす時間(座位時間)”は増え、
1日の活動量が自然と減ってしまう傾向があります。
◆ 心理的・社会的な影響
- 「運動が得意な子だけが目立つ」
- 「恥ずかしい」「失敗したくない」
- 「自分は運動が苦手」
このような思い込みが、運動から遠ざかる要因になります。
特に女子は体型や他者の目を気にする時期にあたり、心理的ハードルが高くなりがちです。
また、仲間関係や指導者の関わりも大きく影響します。
「一緒に動こう」「頑張ったね」と声をかけてもらえる環境があると、運動を続けやすくなります。
3. 運動習慣を支える3つの鍵
研究では、思春期の運動習慣を支える要因として、
①自己効力感(自分にもできるという感覚)
②社会的支援(家族や仲間の励まし)
③環境の整備(運動しやすい場の確保)
の3つが重要であることがわかっています。
◆ ①「できるかも」という小さな成功体験
運動の得意・不得意に関係なく、
「昨日より少しできた」「うまくできた気がする」などの成功体験を積むことで、
運動への自己効力感が高まります。
保護者や先生の「がんばったね」「工夫してたね」という言葉が、
子どもの挑戦意欲を大きく後押しします。
◆ ② 仲間や大人からの“支え”が続ける力に
子どもが運動を続けられるかどうかは、周囲のサポートによって左右されます。
「一緒に運動する」「見守ってくれる」「ほめてくれる」といった関わりがあると、
運動が“楽しい時間”に変わります。
特に、家族と過ごす運動時間(散歩・キャッチボール・縄跳びなど)は、
単なる運動以上に親子の信頼関係を深める時間にもなります。
◆ ③ 運動しやすい環境づくり
環境も大切な要素です。
学校では体育の時間だけでなく、昼休みや放課後にも自由に体を動かせる時間を確保することが望まれます。
また、家庭では「家の中でもできる運動」や「短時間の運動習慣(10分運動)」を取り入れると良いでしょう。
地域でも、「誰でも気軽に参加できる運動クラブ」や「遊びながら体を動かす場」が増えると、
運動習慣の定着に役立ちます。
4. 思春期の運動支援で大切にしたいポイント
● 成績よりも「楽しく動く」ことを重視
この時期の運動の目的は、「勝つこと」より「体を動かすことへの前向きな経験」です。
「体を動かす=気持ちがいい」と感じられるように、評価よりも体験重視の関わりが効果的です。
● 骨・筋肉を育てる運動を週に数回
- ジャンプ運動(なわとび、バスケットボールなど)
- 体重支持運動(スクワット、うで立て伏せ)
- 有酸素運動(ジョギング、自転車、ダンス)
これらは骨を丈夫にし、筋力やバランス感覚を整えます。
また、筋トレも正しい姿勢と方法を守れば安全に行え、
体力や姿勢改善にもつながります(米国小児科学会も推奨)。
● 「続けられる工夫」を取り入れる
- 運動をカレンダーに記録する
- 家族や友達と“チャレンジ形式”で行う
- 自分でメニューを選べるようにする
「やらされる運動」ではなく、「自分で選んで続ける運動」に変えることで、習慣化しやすくなります。
5. まとめ──思春期の体は「変化の途中」
思春期は、骨・筋肉・神経・ホルモンが大きく変化する時期です。
この時期に「体を動かすことが楽しい」と感じられる経験を重ねることで、
将来にわたって健康な生活習慣が続きやすくなります。
つまり、今の運動習慣が“未来の健康”をつくるのです。
💬 保護者・学校関係者へのメッセージ
- 「運動が苦手」な子ほど、成功体験を作ることを意識してあげましょう。
- 「続けられる環境」と「一緒に動く仲間」を整えることが鍵です。
- 成長スピードや体の変化には個人差があるため、“比べない”姿勢が大切です。
すこっぴーラボでは、理学療法士の視点をもとに、子どもの発達や運動支援について専門的に発信しています。
無料相談も受け付けていますので、ご興味のある方はお気軽にご連絡ください。

📚 参考
- 厚生労働省『健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023』
- WHO「Global Recommendations on Physical Activity for Health」
- American Academy of Pediatrics: Resistance Training for Children and Adolescents (2020)
- Frontiers in Physiology (2023): Determinants of physical activity during adolescence
- 日本体育協会「発育発達段階に応じた運動指導ガイドライン」
- Carrascosa, A.et al. 2012.
- Ferrández, A.et al.2009.
- Lau, E.et al .2017.
 
  
  
  
  

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