「すぐに怒ってしまう」「切り替えができない」「感情が爆発して手がつけられない」
そんなお子さんの様子に、悩んでいませんか?
子どもの“感情のコントロール”には、性格だけでなく、体の働き・自律神経が大きく関係しています。
そしてこの自律神経は、日常の運動や遊び、生活習慣を通じて整えていくことができます。
今回は、理学療法士の視点から、感情調整が苦手な子どもに対して取り入れたい
- 身体的アプローチ(遊び・運動)
- 自律神経を整える習慣
について詳しく解説します。
1. 「感情のコントロール」は脳と体のチームプレイ
子どもが怒ったり、泣いたり、我慢できなかったりする背景には、脳の発達と自律神経の状態が関係しています。
● 脳の中で感情をコントロールする部位
- 扁桃体(へんとうたい):怒りや恐怖など本能的な反応を司る
- 前頭前野(ぜんとうぜんや):感情を調整したり、我慢する力を担う
前頭前野は大脳新皮質の最前部にあり、成長とともに発達していく部分です。発達途中の子どもは、まだ十分に「理性的なブレーキ」が効かないのです。
脳の発達に関してはこちらの記事も👇
子どもの脳はどう育つ?~成長に合わせた「困りごと」の理解とサポート~
2. 自律神経と感情の関係
感情が安定しない子どもには、自律神経のバランスの乱れが見られることがあります。
● 自律神経とは?
- 交感神経:活動・興奮・ストレス(アクセル)
- 副交感神経:休息・リラックス・回復(ブレーキ)
この2つのバランスが乱れると、
- 些細なことでイライラ
- 落ち着きがない
- 寝つきが悪い
といった状態が続き、感情のコントロールにも影響を与えます。
3. 感情調整に効く!運動・遊びの工夫
● 【1】リズム運動で“整える”感覚を育む
一定のリズムで体を動かすことで、脳と体が安定しやすくなります。
- トランポリンでのジャンプ
- スキップやケンケンパ
- 手をつないで“ゆらゆら”するダンス
💡 ポイント:リズムは“安定感”を生み、副交感神経を活性化させます。
● 【2】押す・引く・運ぶで“深い感覚”を刺激
重いものを押す・引く・運ぶ動作は、筋肉や関節から「落ち着く刺激=固有受容感覚」が入ります。
- 布団を押す・ソファを押す
- 米袋や水の入ったペットボトルを運ぶ
- タオルの綱引きごっこ
💡 ポイント:怒りや不安で興奮した体を“内側から鎮める”力があります。
● 【3】逆さになる・回る遊びでバランス感覚を育てる
回る・逆さまになる遊びは前庭感覚を刺激し、脳の覚醒状態を整えます。
- ブランコ
- 前転やゴロゴロ転がり
- 逆立ち遊び(壁を使ってもOK)
💡 自分の体の位置や重力に対する感覚が強くなると、安心感が生まれ、落ち着きやすくなります。
4. 感情が落ち着く!生活の中でできる習慣
感情を整えるには、毎日の生活リズムや環境も大切です。
● 【朝】日光を浴びて体内時計を整える
- 朝起きたらすぐカーテンを開ける
- ベランダで深呼吸やストレッチ
- 通学前に“日光を浴びながら歩く”のが理想
● 【夜】寝る1時間前はデジタル機器をオフに
- スマホやテレビの光は交感神経を刺激
- 音や映像の強い刺激が、脳を休める妨げに
寝る前のおすすめルーティン
- お風呂(ぬるめが◎)
- 絵本の読み聞かせ
- 照明を落としてスキンシップ
● 【食事】血糖の乱高下が感情に影響
- 甘いものやジュース → 血糖の急上昇→急降下→イライラ
- 朝ごはんを抜く → 集中できない・キレやすい
食事のポイント
- 主食・主菜・副菜のバランス
- よく噛む食事で副交感神経を優位に
5. 子どもが感情を調整するために大人ができること
● 「落ち着いて!」では伝わらない
感情が爆発しているときは、脳の本能的な部分(扁桃体)が強く働いています。
言葉よりも、身体への働きかけや共感的な声かけが効果的です。
「深呼吸しよう、一緒にふーってしよう」
「ぎゅってしてあげるね」
「ちょっと外の空気吸いにいこうか」
● 習慣の中に「動きと安心」を
- 決まった時間に体を動かす
- 安心できる大人との関わり
- 失敗してもやり直せる経験
運動は、感情のコントロールを支える“土台”づくりです。
ゲームのような“外的報酬”ではなく、「できた」「楽しい」という内的報酬が子どもの自己調整力を育てます。
まとめ:体から整える感情のコントロール
感情がうまく扱えない子どもに、ただ「落ち着いて」「我慢しなさい」と言っても、なかなか届きません。
大切なのは、感情をコントロールする力は「育つもの」だという視点です。
そしてその土台となるのが、体の発達と自律神経の安定。
毎日の生活の中に「動き」や「感覚」を取り入れることが、
結果として「心の落ち着き」につながります。
今できる小さな工夫を、ぜひ親子で楽しみながら続けてみてください。
【参考文献】
- Thayer JF, et al. (2009). Heart rate variability, prefrontal neural function, and cognitive performance. Biological Psychology.
- Wright KP, et al. (2013). Entrainment of the human circadian clock to the natural light-dark cycle. Current Biology.
- Ayres AJ. (1979). Sensory Integration and the Child.
- 中山和弘(2020)『感情と自律神経:調整のしくみと発達支援』
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